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1.そうだ、銭湯へ行こう
家の風呂がぶっ壊れた土曜の夜。
湯島拓巳は絶望した。
土曜日の朝、拓巳は毎度の休日通りたんまり惰眠を貪り、遅めの朝食兼昼食を済ませ、コンビニでビールと夕食を買いご機嫌で晩酌をしながらゴールデンタイムの好きな番組の視聴し、さあ、風呂だ風呂と蛇口をひねったらきしめんくらいの水しか出なかった。
お湯すらでなかった。
錆はちょっと出た。
「業者業者業者」
拓巳はとにかく業者を呼ぼうとホームページを見るも営業時間外でアウトだった。その日の風呂は諦めた。
仕方がないので次の日の日曜日、いの一番に電話をかけるも運悪くその日は予約でいっぱいだった。
『一番早くて明日の月曜日の昼ですね~』
妙に明るい業者の声に苛立つくのは自分がストレスを溜め込んでいるからだろうか。
「つまり、俺は今日も風呂に入れないのか。土日風呂に入れないまま週末を過ごすんだ」
――それは汗まみれデロデロの身体で月曜日出勤するということ。
「おぅう」
拓巳は頭を抱えた。
ぶっちゃけ例年の涼やかな秋なら風呂の一日や二日入らなくても平気だ。
しかし今年は猛暑だ。
猛暑なんだ。
正直昨日風呂が入れなかっただけでも超辛い。汗臭い。だから今日こそは入りたい。
なのに業者が来るのは明日の昼。
「地獄すぎる……」
無力に床に横たえると、
「……ん?」
今朝入ってきた広告の一つに目がいった。
『銭湯【憩いの湯】祝! 100周年キャンペーン実施中!』
「銭湯?」
広告を手に取りまじまじと見る。
「え!? チラシについたクーポンを持ってくと無料で風呂に入れる!?」
しかも記載されてる地図を見たら歩いて行ける近所だった。
なんてタイムリーな!
「そうだよ! 風呂がないなら銭湯へ行けばいいじゃない!」
アントワネット口調になるほどの興奮を覚え拓巳はハサミで綺麗に切り取り線をなぞる。
そして切り取ったそれを拓巳は赤子を抱えるべく大事に大事に抱き締めた。
この紙切れが本日の俺の命綱だ。
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