contents:09 ボスの威厳

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 舞香は、頭を下げる慧慎に、びっくりしてあたふたしながら言う。 「かかか会長、頭を上げてください」 「いや、今は一介のただの親父だ。愚息をお願いするんだ、当たり前だよ。舞香さん」 「私は、慧悟さんにどん底から救ってもらいました。そして、孤独な私にずっと寄り添ってくれたんです。そんな慧悟さんを、私も支えていきたいと思っていますので。不束者ですが、よろしくお願いします。お義父さん」 「…」  何か狙ったわけではない。  ただ、自然と零れた『お義父さん』の言葉。  慧慎は、泣きそうなほど嬉しかった。 「舞香さん、ありがとう。わしを父親と認めてくれるのか」 「…ぁ、すみません。まだそんな関係ではないのに…」 「いや、舞香さんさえ良かったら、そう呼んでくれ。…ああ、泣きそうだ」 「はい、ありがとうございます」  慧慎の喜びように、舞香も嬉しく思った。  思わぬ形で慧悟と出会い、ここまで二人で関係を育ててきた。  今、一番の懸案であった会長であり、父親の慧慎に認めてもらえて、  舞香は、本当に良かったと、安堵感でいっぱいだった。 □◆□◆□◆□  慧悟は、舞香と父親のやり取りを、何処か遠くの出来事のように見ていた。  父親の慧慎は、人の見る目があるのと同時に、簡単に人を信用しない。  まず、疑いの目で相手を見るのが常だった。  関係を求めてくる人物は、徹底的に調べ上げ、  その結果、三宮に害ある場合は、徹底的に叩き潰すような人間だった。  そんな慧慎を、たった1日相手をしただけで、  これほどの信頼を勝ち取った舞香。  慧悟は、慧慎に嫉妬心を抱く暇もなく、  ただ、驚きをもって見ていた。  それから舞香たちは、晩御飯をごちそうになり、  そのまま更に、慧慎の話し相手をしていると、 「舞香、もういいだろう。帰るぞ」  慧悟が痺れを切らして立ち上がり、舞香の手を取った。 「何だ、まだそんな時間じゃないだろう。せっかちだな」 「何とでも。いくぞ、舞香」 「ぁの、えっと、すみません。お義父さん」 「…仕方ない。舞香さん、またおいで」 「はい、今日はご馳走様でした」 「行くぞ」  舞香は、慧悟に引き摺られながら、  どうにか、お礼の言葉を慧慎に伝え、本家を後にした。  蓮の運転する車で、帰路につく。 「………ぁの、慧悟…さん?」 「…」  本家を出てからの、慧悟の機嫌がすこぶる悪い。  どうしたのかと思っていたら、  運転席から蓮が助け舟を出してきた。 「舞香ちゃん、慧悟は、親父さんと舞香ちゃんが、仲良く話すのが面白くなくて、舞香ちゃんが、親父さんの信頼を、いとも簡単に得ていることが、少し悔しいんだ。だから、気にしなくていいよ」 「蓮、うるさい」 「ほーらね。図星だ」 「…」  舞香は、思いがけず慧悟に嫉妬されてしまって、  どうしていいか分からなくなった。  マンションに戻ると、性急に慧悟から求められ、  有無を言わさず組み敷かれ、  朝まで放してくれることは終ぞなく、  とうとうその日、  舞香は、慧悟に抱き潰されてしまったのだった。
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