contents:00 傷だらけの小鳥

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contents:00 傷だらけの小鳥

  side.渡邊舞香(わたなべまいか)  私には、婚約者がいた。  新卒で入った職場で、彼とは同期で入社し、  社員研修の時に、初めて彼と知り合った。  彼は物腰の柔らかい優しい人で、  どちらからともなく距離が近づき、  自然と、彼との付き合いが始まった。 「舞香、結婚しよう」  付き合って3年の記念日に、彼は私にプロポーズをしてくれた。  だけど私は、そのプロポーズを、すぐに承諾しなかった。  私は一つ、大きな問題を抱えている。  その問題を、私は付き合い始めの頃に、彼に伝えていた。  だから彼に、そんな私でいいのか再度、確認をした。 「最初の時にも言ったけど、私は両親と疎遠なの。母は入院してるし、父は、どこにいるかもわからない。そのせいで、あなたに迷惑を掛けることがあるかもしれない。そんな私で、本当にいいの?」  その私の言葉に、 「いいに決まってる。俺は舞香と結婚するんだ。親は関係ないよ。大丈夫、俺が舞香を護るから。一生、俺の傍にいて欲しい」  彼はそう言って、私を抱きしめてくれた。  私の家族は、バラバラだった。  父は、外に愛人を作り、母と私を捨てて出て行った。  母は、そんな父のせいで、心が壊れてしまった。  六畳一間の狭いアパートで、  毎日毎日、違う男の人が家に来て、  獣のような声を聞く毎日。  私は、押し入れに隠れて、息を殺し、  その嵐が過ぎるのをただただ待った。  そんな毎日を過ごしていた私も、  高校卒業と同時に、母を捨てて、家を出た。  親戚縁者を頼り、部屋を借りて、  都会の喧騒に飛び込んだ。  奨学金を借り、大学を出て、大手の広告代理店に就職し、  今、  人並みの幸せを、私もやっと手に入れることができた…。  そう、思っていたのに…。  私は、これまで幸せを感じたことがない。  その幸せを、彼が与えてくれると思っていた。  私は自分の親を捨て、重い業を背負い込んだ。  その業は、いつか清算しなければならない。  だからせめて、彼の両親を大切にしようと思っていた。  彼の家族に認められるように、これまで頑張ってきた。  でも所詮、私は赤の他人。  血のつながりには敵わなかった。  これは、私が背負った業の代償なのか、  私の幸せが逃げていく。  ただ幸せになりたいだけなのに…。  私は切に願う。  幸せになりたい。  贅沢な幸せじゃない、  人並みの、細やかな幸せでいい。  幸せになりたい。  私は今日も、幸せを求めて彷徨い歩く。  だけど、私の所に幸せは訪れてくれない。  幸せを求め、私は尚も歩き続ける。  どうか、教えて下さい。  私の願う幸せは、  いったいどこを探せば  あるのでしょうか? - side.Maika END -
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