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contents:09 ボスの威厳
慧慎は、そんなゆかりの胸の内など分かりきった上で、冷たく言い渡す。
「ゆかり、今後、慧悟の身辺でウロつくことは許さん。三宮のことで動くことも許さん。今後は、黙って余計なことはするな」
「余計なことって…、私は慧悟のために…」
「お前のすることは、慧悟にとって邪魔でしかない。これ以上、足を引っ張ることを続けるならば、わしはお前を切る」
「…っ」
ゆかりは、ひゅっと息をのんだ。
最近、慧悟が自分の言うことを聞かなくなった。
今まで自分の言うことに、必ず従っていたのに。
その原因を、ゆかりは探りたかった。
しかし、今度は慧慎がこれまでにないくらい憤慨している。
慧慎の怒りは本物だ。出張から帰ってすぐのこの剣幕。
何かあったのかと不安になった。
「あの、出先で何かあったのですか?」
「ゆかり、今言った事をもう忘れたのか?」
「…ぇ」
「慧悟同様、わしの行動も三宮に関することだ。わしは三宮のために、お前を切ることなぞ躊躇わんぞ?」
「…」
慧慎に冷たく言い放たれて、
ゆかりは、慧慎の言うことに従うしかなかった。
□◆□◆□◆□
その頃、一条家でもひと騒動起きていた。
「お父様、私、慧悟さんから軽くあしらわれてしまいました。せっかくホテルで、慧悟さんのお手伝いしようと思っていたのに」
怜子は、わんわんと泣き喚く。
だが、一条の当主は、そんな娘を労うでもなく、
逆に、自分の娘に冷たく言い放つ。
「それに関して、慧悟くんからクレームが来ていたぞ。嫁面をしてホテルで勝手をしたそうだな?やったらやったで役立たず。はっきり『お飾りはいらない』と言われた上、三宮のご当主からも、今回の見合いは断られた」
「えっ」
「既に、お前の噂はそこかしこから湧いている。一条の家紋に泥を塗りおって。お前は、当分屋敷から出ることは許さん。ばあやにもう一度きっちり教育し直してもらうから、覚悟しておけ」
「そんな、お父様っ」
娘を一瞥して出ていく。
その後ろを夫人が追いかけてきた。
「あなた、さすがにあれはやりすぎでは…」
「お前も、事の重大さが分かっていないのだな」
「…」
「いいな、甘やかすことは許さん。今回のことで、先方は憤慨されている。特に慧悟くんがだ。三宮のホテルを使えなくなるとうちが困る。お前も、余計なことはするな。分かったな?」
「…はぃ」
夫人も、当主の剣幕に、何も言うことが出来なかった。
一条家のお嬢様は、これ以降、
メイド長の古株、通称『ばあや』から、
徹底的にたたき直される羽目になったのだった。
だが、この一条家のお嬢様は、再びホテルに現れ、
舞香を困らせる事態を引き起こした。
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