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この日も、舞香は一日の初めに、顧客情報を把握することから始めた。
支配人をはじめ、厨房から清掃の従業員まで、
全ての職員に事細かな指示を出していく。
「今日の手配は以上です。皆さん、今日もよろしくお願いします」
「「「「「よろしくお願いします」」」」」
チェックインの時間が来て、今日の予約客が続々と到着する。
そんな中、今日の予約客の中に、
あの一条怜子がいるのに舞香は気がついた。
すぐに予約客の元へ向かう。
「大槻様、本日もご利用いただき、ありがとうございます」
「ああ。舞香さん、今日もお世話になりますよ。あと、こちらの一条さんと少し、よろしいでしょうか?家内の知り合いなんです。部屋でお茶をしたいと言ってまして」
「わかりました。すぐに手配をいたします」
「ありがとう。無理を言います」
舞香は、一抹の不安を感じたが、
知り合いだという一条のご令嬢を、追い出すわけにもいかず、
顔にはおくびも出さずに受け入れた。
「茜、みんなに周知をお願い」
「わかりました。すぐに」
一条のご令嬢がいることは、すぐに全従業員に周知された。
□◆□◆□◆□
一条怜子はほくそ笑んだ。
どうにかホテルに入れないか、機会を伺っていると、
顔なじみの家族が見えたのをチャンスと見て、
すぐに声を掛けた。
「大槻さんじゃありませんか?ご無沙汰しております」
「あら、怜子さん。お久しぶり。怜子さんはこちらには…?」
「近くを通りかかったら、大槻さんのお姿が見えたので、ご挨拶に」
「まあ、わざわざありがとうございます。そうだ、怜子さん。お急ぎでなければお茶でもどうですか?」
「いえ、今日はご挨拶をと思っただけですのですので」
「あら残念。お忙しいのですか?」
「この後の予定はありませんが、ご家族でのご旅行でしょう?お邪魔ですから」
「そんなことありませんよ。予定が無いのでしたら、よろしいじゃありませんか。少しだけ、お部屋でお茶をしましょう」
怜子の思惑通り、お茶に誘われたので、秘書に目配せをする。
怜子の秘書は、黙礼するとその場を離れていった。
ホテルに大槻家と連なって入ると、
ホテル側も無下には出来ず、すんなり受け入れた。
(ふんっ、最初からそうしてれば良かったのに)
意気揚々と怜子は部屋へとよばれた。
思いがけず話に花が咲いて、長居をしていると、
チャイムが鳴り、誰かがこの部屋を訪れた。
「だれか来ましたね。誰かしら…」
「ああ、私です。秘書にお茶菓子の手配をしていたんです」
そういって、受け取りに席を立つ。
秘書から箱を受け取ると、戻ってきた。
「ここのお菓子は美味しいんです。せっかくなのでよかったら」
「そうなんですね。でも、実は…」
「奥様、心得てますから。大丈夫ですよ」
大槻の奥様の話を遮って、怜子はお茶の準備をしていく。
玲子の気持ちを無下にできない奥様は、
黙って任せることにしたのだった。
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