contents:09 ボスの威厳

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 この日も、舞香は一日の初めに、顧客情報を把握することから始めた。  支配人をはじめ、厨房から清掃の従業員まで、  全ての職員に事細かな指示を出していく。 「今日の手配は以上です。皆さん、今日もよろしくお願いします」 「「「「「よろしくお願いします」」」」」  チェックインの時間が来て、今日の予約客が続々と到着する。  そんな中、今日の予約客の中に、  あの一条怜子がいるのに舞香は気がついた。  すぐに予約客の元へ向かう。 「大槻様、本日もご利用いただき、ありがとうございます」 「ああ。舞香さん、今日もお世話になりますよ。あと、こちらの一条さんと少し、よろしいでしょうか?家内の知り合いなんです。部屋でお茶をしたいと言ってまして」 「わかりました。すぐに手配をいたします」 「ありがとう。無理を言います」  舞香は、一抹の不安を感じたが、  知り合いだという一条のご令嬢を、追い出すわけにもいかず、  顔にはおくびも出さずに受け入れた。 「茜、みんなに周知をお願い」 「わかりました。すぐに」  一条のご令嬢がいることは、すぐに全従業員に周知された。 □◆□◆□◆□  一条怜子はほくそ笑んだ。  どうにかホテルに入れないか、機会を伺っていると、  顔なじみの家族が見えたのをチャンスと見て、  すぐに声を掛けた。 「大槻さんじゃありませんか?ご無沙汰しております」 「あら、怜子さん。お久しぶり。怜子さんはこちらには…?」 「近くを通りかかったら、大槻さんのお姿が見えたので、ご挨拶に」 「まあ、わざわざありがとうございます。そうだ、怜子さん。お急ぎでなければお茶でもどうですか?」 「いえ、今日はご挨拶をと思っただけですのですので」 「あら残念。お忙しいのですか?」 「この後の予定はありませんが、ご家族でのご旅行でしょう?お邪魔ですから」 「そんなことありませんよ。予定が無いのでしたら、よろしいじゃありませんか。少しだけ、お部屋でお茶をしましょう」  怜子の思惑通り、お茶に誘われたので、秘書に目配せをする。  怜子の秘書は、黙礼するとその場を離れていった。  ホテルに大槻家と連なって入ると、  ホテル側も無下には出来ず、すんなり受け入れた。 (ふんっ、最初からそうしてれば良かったのに)  意気揚々と怜子は部屋へとよばれた。  思いがけず話に花が咲いて、長居をしていると、  チャイムが鳴り、誰かがこの部屋を訪れた。 「だれか来ましたね。誰かしら…」 「ああ、私です。秘書にお茶菓子の手配をしていたんです」  そういって、受け取りに席を立つ。  秘書から箱を受け取ると、戻ってきた。 「ここのお菓子は美味しいんです。せっかくなのでよかったら」 「そうなんですね。でも、実は…」 「奥様、心得てますから。大丈夫ですよ」  大槻の奥様の話を遮って、怜子はお茶の準備をしていく。  玲子の気持ちを無下にできない奥様は、  黙って任せることにしたのだった。
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