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ホテルの清掃員は、仕事を終え、リネン室から出ようとした時、
通達のあった一条の秘書が、明らかに菓子の入っているであろう箱を、
持っているのを見て、そっと様子を伺っていた。
すると、大槻一家が宿泊する部屋のチャイムを鳴らし、
「お嬢様、ご依頼の品です」
「ありがとう」
そう言って、一条のお嬢は部屋へ戻り、
秘書は、部屋の前で待機した。
一部始終を見ていた職員は、不意に顧客情報を思い出した。
(確か…、あそこのお子様は、アレルギーがあったはず)
これは大事になると、すぐに舞香に連絡を入れた。
「あ、舞香さん。すみません。大槻様のお部屋に、一条様の秘書さんが、お菓子だろう箱を届けていたのですが…」
"え、大槻様のお子様には、アレルギーがあるのに"
「はい、だから舞香さんにお知らせしたほうがいいかと思いまして」
"分かりました。すぐに対処します"
「はい、よろしくお願いします」
“陽子ちゃん、ありがとう”
舞香は、従業員からの連絡を受けるとすぐに、
「茜、料理長に大槻様のお子様にお出しするものを、お部屋にすぐに届けてもらうよう伝えて。昨日のうちに手配してたから、多分出来てると思う。私は、すぐにお部屋に向かうから」
「わかりました。すぐに」
そう言って、舞香は、大槻一家が宿泊する部屋へ急いだ。
□◆□◆□◆□
舞香が部屋の前に到着すると、
一条の秘書が、舞香の行く手を遮った。
「何か御用ですか?今、うちのお嬢様が歓談中です。ご遠慮していただいてよろしいですか?」
ホテルの従業員でもない、ましてや客でもない、一介の秘書からのあまりの言い草に、舞香は思わず声を荒げる。
「あなた、こちらにお菓子を届けられましたね? アレルギーチェックはされたのですか?」
「いえ。でも、必要ないかと」
「…なんて無責任な!大槻様のお子様は、玉子アレルギーがあるんです。あなた、ここで死人を出したいんですか!?」
舞香の剣幕に、秘書はたじろぐ。
「…ぃゃ、死人なんて、そんな…」
「アレルギーを甘く見ないでください。あなた、万が一の場合、責任とれるんですか?うちの職員が見てますから、責任とってもらいますよ!?」
動揺で狼狽える秘書を押しのけて、
舞香は、迷わず部屋のチャイムを鳴らした。
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