contents:09 ボスの威厳

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 怜子は、自分が用意したお菓子を出し、お茶を淹れた。 「どうぞ、美味しいですよ」 「綺麗ですね、とっても。食べるのがもったいないくらい」  大槻の奥様も目を輝かせる。  大人は、フルーツのたっぷり乗ったタルト、そして、  子供には、大好きなプリンだった。  大槻の奥様は疑わない。心得ているという怜子の言葉を。  そうして、お茶を一口含み、出されたお菓子を食べようとしたその時、  部屋のチャイムが鳴った。  奥様が出迎えに席を立ち、ドアを開けると舞香が立っていた。 「大槻様、失礼します」 「あら舞香さん、どうされました?」 「はい、ご歓談中とのことで、お子様にいつものプレートをと思いまして」  そう言ったタイミングで、茜が頼んでいた品を届けに来た。 「まあ、良かった。ありがとう」 「失礼します」  慌てるそぶりを見せず、自然な所作で部屋へと入る。  すると、一条のお嬢があからさまに不快な顔をして、 「何?今、お茶してるんだけど、邪魔しないでくれる?」 「はい。ですが、お子様にはアレルギーがございますので、こちらでご用意させていただいたものをと思いまして」  茜は、大槻の子供の前にそっとお目当てのプレートを置いた。  子供の瞳がキラリと輝き、テーブルに手をつき飛び跳ねる。 「お待たせしました。坊ちゃま、どうぞ」  それは、大槻家の子供が好きで、いつも頼むプリンだった。 「あー、あのぷりんっ」 「はい。あのプリンです。ごめんなさい、遅くなりましたね。どうぞ」  子供は、飛び跳ねて喜んだ。  舞香は、子供が差し出されたプレートに、気を取られている隙に、  そっと怜子が与えたプリンを、見えないように取り上げた。  それを見た、大槻の奥様は青ざめる。 「それでは、私はこれで失礼いたします。ご歓談中に申し訳ありませんでした。あとは、ごゆっくりどうぞ」  舞香は、綺麗に腰を折り、部屋を後にした。  残された怜子は、怒りに震えていた。 「何?あの女。この前も思ったけど、今回も私にこんな…」  自分勝手な持論を呟いていると、 「怜子さん」  大槻夫人が怜子に冷たく言い放つ。 「あなた、先程『心得ている』っておっしゃったわよね?」 「…ぇ、ええ」 「それは、うちの子のアレルギーの事だと思ってました。でも、違いましたね。うちの子には、玉子アレルギーがあるんです。それなのに…」  大槻夫人の手は、フルフルと震えていた。  それは、子供が食べていたかもしれない恐怖と、  舞香が察して、食べられるように準備してくれた安堵、  そして、考えなく準備してきた怜子に対する怒りで。 「舞香さんのお陰で事なきを得ましたが、怜子さんは、何を心得ていたんです?」  大槻夫人の静かな怒りに、さすがの怜子も事の重大さを理解した。 「すみません。私はただ…」 「もう結構です。怜子さん、お引き止めして申し訳ありませんでした。お忙しいでしょうから、どうぞお帰りください」  大槻の奥様の静かな怒りに、  弁解する余地もなく、怜子はすごすごと退室せざるを得なかった。
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