contents:09 ボスの威厳

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 怜子が、大槻家の部屋を出て、とぼとぼと歩いていると、  舞香に対して、ふつふつと理不尽な怒りが湧いてきた。 「あの女、よくも私に恥をかかせてくれたわね…」  怜子は、その足の勢いで、事務所に怒鳴り込んだ。 「あなた、何のつもりなの?いきなり部屋に乗り込んでくるなんて!!」  舞香は、冷静に振り向いて、怜子を諭す。 「大槻のお子様は、玉子アレルギーがおありなんです。うちのスタッフが、あなたが外から持ち込んだ、と聞きましたので、食べられないお子様に、急いでご用意した次第です」 「それが余計だって言ってるんです!おかげで、奥様からお叱りを受けたじゃない!!」  金切り声と同時に、舞香の頬に衝撃が走った。 「舞香さん!」  支配人が思わず立ち上がる。  が、舞香はそれを制した。 「一条のお嬢様、あなたはこのホテルで死人を出したいのですか?」 「はあ!? 今そんなこと言ってないでしょう?」 「そんなことなんですよ?うちでアレルギーの症状が出たら、信用問題です。損失は計り知れません。それにお嬢様は、その補償が出来るのですか?」 「意味が分からない。一体、なんの…」 「………一条のお嬢様、これ以上話しても時間の無駄ですので」  舞香はそう言って話を切り、 「茜、一条のご当主と、慧悟さん、それに慧慎会長に連絡を入れてください」 「はい、すぐに」 「支配人、お客様がそろそろご到着される時間ですから、お出迎えをお願いします」 「はい、かしこまりました」 「一条のお嬢様、申し訳ありませんが、このままここでお待ちください」  舞香のあまりの迫力に、怜子はただ黙ってこくこくと頷いた。 □◆□◆□◆□  暫くして、呼び出された面々が集結した。  事務所の中に、いつもはいない人間がいるせいか、  事務所の中が、何だか狭苦しく感じた。  先ず、口火を切ったのは、一条総裁。 「それで、怜子はここで何をしているんだ?」 「それは…」 「俺はお前に、屋敷から出るな、と言っておいたはずだが?」 「その…」 「しかも、自分の失態を棚に上げて、舞香さんを殴った?」 「それは、あの女が勝手なことをするから…」 「ばかもん!お前は、事の重大さがまだわかっとらんのか!舞香さんが気転を利かせてくれなければ、どうなっていたかわからんのだぞ!」  怜子は、父親の剣幕でようやく、事態の深刻さを理解した。 「大槻のご夫婦には先程、謝罪に伺ってお許しを得ている」 「…」 「お前が、これほど頭の悪い女だとは思わなかった」 「………お父様、酷い…」 「何が酷いか!お前は一から教育し直しだ。立て!」 「きゃっ」  ぐっと腕を掴まれ、その場に立たされる。 「慧悟くん、慧慎。この度は、うちのバカ娘が本当に申し訳ない。後日、改めてお詫びに伺いますので」  そう言って、深々と頭を下げ、  当事者の怜子は、首根っこを掴まれ、引き摺られるようにして帰っていった。
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