3474人が本棚に入れています
本棚に追加
怜子が、大槻家の部屋を出て、とぼとぼと歩いていると、
舞香に対して、ふつふつと理不尽な怒りが湧いてきた。
「あの女、よくも私に恥をかかせてくれたわね…」
怜子は、その足の勢いで、事務所に怒鳴り込んだ。
「あなた、何のつもりなの?いきなり部屋に乗り込んでくるなんて!!」
舞香は、冷静に振り向いて、怜子を諭す。
「大槻のお子様は、玉子アレルギーがおありなんです。うちのスタッフが、あなたが外から持ち込んだ、と聞きましたので、食べられないお子様に、急いでご用意した次第です」
「それが余計だって言ってるんです!おかげで、奥様からお叱りを受けたじゃない!!」
金切り声と同時に、舞香の頬に衝撃が走った。
「舞香さん!」
支配人が思わず立ち上がる。
が、舞香はそれを制した。
「一条のお嬢様、あなたはこのホテルで死人を出したいのですか?」
「はあ!? 今そんなこと言ってないでしょう?」
「そんなことなんですよ?うちでアレルギーの症状が出たら、信用問題です。損失は計り知れません。それにお嬢様は、その補償が出来るのですか?」
「意味が分からない。一体、なんの…」
「………一条のお嬢様、これ以上話しても時間の無駄ですので」
舞香はそう言って話を切り、
「茜、一条のご当主と、慧悟さん、それに慧慎会長に連絡を入れてください」
「はい、すぐに」
「支配人、お客様がそろそろご到着される時間ですから、お出迎えをお願いします」
「はい、かしこまりました」
「一条のお嬢様、申し訳ありませんが、このままここでお待ちください」
舞香のあまりの迫力に、怜子はただ黙ってこくこくと頷いた。
□◆□◆□◆□
暫くして、呼び出された面々が集結した。
事務所の中に、いつもはいない人間がいるせいか、
事務所の中が、何だか狭苦しく感じた。
先ず、口火を切ったのは、一条総裁。
「それで、怜子はここで何をしているんだ?」
「それは…」
「俺はお前に、屋敷から出るな、と言っておいたはずだが?」
「その…」
「しかも、自分の失態を棚に上げて、舞香さんを殴った?」
「それは、あの女が勝手なことをするから…」
「ばかもん!お前は、事の重大さがまだわかっとらんのか!舞香さんが気転を利かせてくれなければ、どうなっていたかわからんのだぞ!」
怜子は、父親の剣幕でようやく、事態の深刻さを理解した。
「大槻のご夫婦には先程、謝罪に伺ってお許しを得ている」
「…」
「お前が、これほど頭の悪い女だとは思わなかった」
「………お父様、酷い…」
「何が酷いか!お前は一から教育し直しだ。立て!」
「きゃっ」
ぐっと腕を掴まれ、その場に立たされる。
「慧悟くん、慧慎。この度は、うちのバカ娘が本当に申し訳ない。後日、改めてお詫びに伺いますので」
そう言って、深々と頭を下げ、
当事者の怜子は、首根っこを掴まれ、引き摺られるようにして帰っていった。
最初のコメントを投稿しよう!