contents:09 ボスの威厳

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 嵐が去っていき、事務所には、慧悟と慧慎、そして舞香と支配人が残った。  慧悟は、舞香の頬にそっと触れながら、 「舞香、頬を見せてみろ。少し赤くなってる」 「あの、社長。大丈夫ですから」 「……そうか。大変だったな、舞香」 「いいえ、スタッフが気づいて知らせてくれたんです。おかげで大事にならずにすみました」 「大槻様も、驚かれてましたね」 「はい。でも、食べる前で本当に、良かったです」  舞香が、ホッと安堵していると、 「………で?なんで親父がここにいるんだ?」  慧悟が、苛立ちを隠さず尋ねる。 「すみません。私がお呼びしました。一条のご当主をお呼びしたので、念のために。あっという間に帰られましたが…」 「イライラするな、慧悟。ハゲるぞ?」 「うるさい。用が済んだら帰れ」 「そう言うな。慧悟、今度本家に来い。舞香さんと一緒にだ。舞香さんまた」  そう言って、秘書と一緒に帰っていった。  状況が読めない慧悟は、 「舞香、親父今、何て言った?本家に来いって言わなかったか?」  鳩豆な慧悟を見て、くすっと舞香は笑う。 「はい、おっしゃいましたね。慧悟さん、私はいつでもお供しますから」  舞香は慧悟に、慧慎が以前、ホテルに来たことは伝えず、それだけ伝えた。 □◆□◆□◆□  夜、舞香は、慧悟の腕に抱かれながら、  未だに納得していない慧悟の話に付き合っていた。 「舞香、親父は舞香の事を知っていたな…。俺、話してないんだが…」 「そうですか。今度、出向いた時に、お父様に聞いたらどうですか?」 「………」  慧悟は、心底嫌そうに眉間にしわを寄せ、舞香をぎゅっと抱きしめた。 「…本家に連れていくということは、あの女とも顔を合わせることになる。舞香が嫌な思いをする場所に、わざわざ行くのは…」 「でも、いずれにしても一度は行かなければ…。避けては通れませんよ?なら、ご機嫌だったお父様が、ご機嫌なうちに伺うのも一つの手ですよ?」  舞香は、自分の腕を慧悟の背中に回し、宥めるように摩る。  すると、慧悟が舞香の身体を、折れるほどに抱き締めてきた。 「………舞香、俺はもう、お前を手放してやれない」 「はい、分かっています。私も、慧悟さんから離れませんから」 「……舞香」 「慧悟さん、大丈夫ですよ。私も一緒ですから」  慧悟は、いつになく不安を零す。  これまで、親の言いなりに生きてきた慧悟。  その習慣が、行動にこびりついているのだ。  結果、親の意思に反する行動をすると、  無意識に、心がやめろと身体を嗜めてくる。  長い年月の習慣は、変えるのに時間がかかる。  慧悟の不安は、そう簡単に払拭できることではなかった。  舞香は、そんな慧悟の心の機微に、黙って寄り添った。
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