contents:09 ボスの威厳

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 慧慎が、本家に来るようにと言い残した週の休日に、  慧悟は、舞香と共に本家へ足を向けた。  三宮家の本家は、高級住宅街の一角にあり、  その中でも、ひときわ存在感があるお屋敷だった。 「………わかってはいましたけど、大きなお屋敷ですね」 「そうか?広いだけだ。俺は好きじゃない」  慧悟は、悪態をつきながら、大きな門をくぐる。  庭は、手入れの行き届いた日本庭園が続き、  その庭を抜けた先に、母屋が見えてきた。 「綺麗ですね。手入れが行き届いていて、ここまでのお庭は、他にはないですよ」 「そうか?庭は、親父の趣味なんだよ。もともと錦鯉を飼うための池を作ったのが最初なんだ。そこから錦鯉に合う庭をってことで、今の状態」  慧悟は、興味なさげにそう言ったが、舞香は、なるほどと思い、  この美しい庭に、慧慎の心が見える気がした。  玄関に到着し、慧悟は無造作に引き戸の玄関を開ける。  すると玄関に、執事のような方が既に待っていて、 「ぼっちゃま、お帰りなさいませ」  と、恭しく美しく腰を折った。 「親父は?」 「はい、応接室でお待ちです」 「わかった。舞香、いくぞ」 「あのっ…」  慧悟は、舞香の手を取って本家の広い廊下をずかずかと進んでいった。  あまりにも早足に進むので、舞香は、出迎えてくれた執事の方に、  軽く会釈をするのが精いっぱいだった。  応接室に到着すると、さらに部屋の引戸をすぱっと開け、  慧悟は部屋へと入っていく。  舞香は、慧悟の苛立ちを感じて、はらはらしていた。 「親父、舞香を連れてきた」 「おお、舞香さんしばらく。いらっしゃい」 「はい、先日はありがとうございました」  舞香と慧慎のやり取りに、慧悟が舞香に尋ねる。 「舞香、先日ってなんだ?」 「おや、舞香さん。まだ話してなかったのかな?」 「すみません。慧悟さんもごめんなさい。この間、慧悟さんが出張した時、会長がお忍びでご宿泊されたんです」 「はあ!?」  慧悟の機嫌がみるみる悪くなる。  そして、あの時の出張が、慧慎が舞香に会うために仕組んだことだと察した。 「まさか、舞香に会うためにワザとか!?」 「そうだぞ。なかなかに有意義な時間だった」  慧慎は、ご満悦だったが、慧悟は憤慨していた。 「舞香、その時何もなかったのか!?」 「…………はぃ、最初は、会長だと知らなくて、いつもの接客をしただけなんです。翌日、そうだと知らされて、色々とお話を伺って、その後は、普通にお帰りになられた………だけです」  慧悟の剣幕に、しどろもどろに舞香が答えると、 「親父、なんでそんなことを…」 「お前が初めて、形振り構わずに捕まえた女性だからな。会ってみたかったんだ」  慧慎は、けろりと、悪びれもなく答えた。  慧慎のほくほく顔と、慧悟のしかめっ面。  二人の顔を見比べながら、舞香は鳩豆になってる自分の頬を、むにゅっと摘み、  やっぱり親子ってそっくりだなぁ…。  別々に見ると感じないんだけど、並ぶとやっぱり瓜二つだぁ。  なんて、のんきな感想を頭の中で呟いていた。
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