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慧慎が、本家に来るようにと言い残した週の休日に、
慧悟は、舞香と共に本家へ足を向けた。
三宮家の本家は、高級住宅街の一角にあり、
その中でも、ひときわ存在感があるお屋敷だった。
「………わかってはいましたけど、大きなお屋敷ですね」
「そうか?広いだけだ。俺は好きじゃない」
慧悟は、悪態をつきながら、大きな門をくぐる。
庭は、手入れの行き届いた日本庭園が続き、
その庭を抜けた先に、母屋が見えてきた。
「綺麗ですね。手入れが行き届いていて、ここまでのお庭は、他にはないですよ」
「そうか?庭は、親父の趣味なんだよ。もともと錦鯉を飼うための池を作ったのが最初なんだ。そこから錦鯉に合う庭をってことで、今の状態」
慧悟は、興味なさげにそう言ったが、舞香は、なるほどと思い、
この美しい庭に、慧慎の心が見える気がした。
玄関に到着し、慧悟は無造作に引き戸の玄関を開ける。
すると玄関に、執事のような方が既に待っていて、
「ぼっちゃま、お帰りなさいませ」
と、恭しく美しく腰を折った。
「親父は?」
「はい、応接室でお待ちです」
「わかった。舞香、いくぞ」
「あのっ…」
慧悟は、舞香の手を取って本家の広い廊下をずかずかと進んでいった。
あまりにも早足に進むので、舞香は、出迎えてくれた執事の方に、
軽く会釈をするのが精いっぱいだった。
応接室に到着すると、さらに部屋の引戸をすぱっと開け、
慧悟は部屋へと入っていく。
舞香は、慧悟の苛立ちを感じて、はらはらしていた。
「親父、舞香を連れてきた」
「おお、舞香さんしばらく。いらっしゃい」
「はい、先日はありがとうございました」
舞香と慧慎のやり取りに、慧悟が舞香に尋ねる。
「舞香、先日ってなんだ?」
「おや、舞香さん。まだ話してなかったのかな?」
「すみません。慧悟さんもごめんなさい。この間、慧悟さんが出張した時、会長がお忍びでご宿泊されたんです」
「はあ!?」
慧悟の機嫌がみるみる悪くなる。
そして、あの時の出張が、慧慎が舞香に会うために仕組んだことだと察した。
「まさか、舞香に会うためにワザとか!?」
「そうだぞ。なかなかに有意義な時間だった」
慧慎は、ご満悦だったが、慧悟は憤慨していた。
「舞香、その時何もなかったのか!?」
「…………はぃ、最初は、会長だと知らなくて、いつもの接客をしただけなんです。翌日、そうだと知らされて、色々とお話を伺って、その後は、普通にお帰りになられた………だけです」
慧悟の剣幕に、しどろもどろに舞香が答えると、
「親父、なんでそんなことを…」
「お前が初めて、形振り構わずに捕まえた女性だからな。会ってみたかったんだ」
慧慎は、けろりと、悪びれもなく答えた。
慧慎のほくほく顔と、慧悟のしかめっ面。
二人の顔を見比べながら、舞香は鳩豆になってる自分の頬を、むにゅっと摘み、
やっぱり親子ってそっくりだなぁ…。
別々に見ると感じないんだけど、並ぶとやっぱり瓜二つだぁ。
なんて、のんきな感想を頭の中で呟いていた。
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