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三宮親子の喧嘩を、唖然として見つめていた舞香だったが、
手元に持っていた手土産を思い出し、今だ終わらない二人の言い合いに、割って入った。
「あの、すみません。これ、お口に合うか分かりませんが、以前視察に行った町にある、菓子店のお菓子です。よろしければ」
「おお、これは初めて見るな」
「そうですか?良かったです。界隈は知ってるだろうと思って、取り寄せたんです」
「そうか、ありがとう」
そう言って、受け取ると、後ろに控えた執事に渡した。
執事は、ポットとカップを持って戻ってくると、
美しい所作で紅茶を入れてくれた。
紅茶の香りがふんわりと香る。
「いい香りですね。…ディンブラですか?」
「おお、分かるのか。すごいな、舞香さん」
「いえ、好きなんです。香りが華やかで、渋みに爽やかさが少しあるようなので、そうかなと…」
「今年の茶葉は、特に香りが良くてな…」
慧悟は、舞香が父親と、打ち解けた話し方をしているのを見て、
舞香は慧慎に、既に認められていると察した。
(多分、俺が出張に出された時に、舞香の本質に気付いたんだろう)
慧慎は、人を見る目は誰よりもあった。
必要だと思う人材には、金銭を惜しまない。
ホテルの従業員、その末端一人にしても、無駄な人材はいなかった。
その目で、舞香の才能、必要性を瞬時に見抜いたに違いなかった。
舞香の横顔をそっと見る。
親として好きになれないが、事業家としては到底追いつけない、
尊敬に値する三宮慧慎に、たった一日で認められた舞香は、
やはり自分にとって、必要な存在だと、慧悟は再確認したのだった。
□◆□◆□◆□
そんな二人を見ていてふと、慧悟は、ゆかりがいないことに気が付いた。
「そう言えば、あの女は?」
あの女?と、舞香は誰のことかと首を傾げた。
「ゆかりか?ゆかりは実家だ。しばらく帰らないように言ってある」
「何だ?また何かやらかしたのか?」
「この間の一条のお嬢のやらかしは、ゆかりがけしかけてたからな」
「……はぁっ」
慧悟は、あからさまにため息を吐く。
「親父、あの女は百害あって一利なしだ。とっとと切れ」
「そう言うな。あれでも俺には大事なんだよ。二度と、お前のことに関して関わらせることはしないから」
慧慎は、申し訳なさそうに慧悟に呟く。
そして、舞香に向かって想いを告げた。
「舞香さん、慧悟はこれまで親の言うままに生きてきた。そのために慧悟は、心を満たすことなく育ったんだ。だけど、舞香さんに出逢って、慧悟に心が出来た。初めて『人』になったんだ」
慧慎は、続ける。
「舞香さん、こんな息子だが、舞香さんへの想いは本物だ。わしにあれほど食って掛かる慧悟を見たのは初めてだったんだ。舞香さんに対する独占欲と執着心を俺は見た。慧悟は、舞香さんじゃないと駄目だろう。舞香さん、どうか末永く、息子をよろしく頼みます」
慧慎は、舞香に深々と頭を下げた。
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