3475人が本棚に入れています
本棚に追加
舞香は、頭を下げる慧慎に、びっくりしてあたふたしながら言う。
「かかか会長、頭を上げてください」
「いや、今は一介のただの親父だ。愚息をお願いするんだ、当たり前だよ。舞香さん」
「私は、慧悟さんにどん底から救ってもらいました。そして、孤独な私にずっと寄り添ってくれたんです。そんな慧悟さんを、私も支えていきたいと思っていますので。不束者ですが、よろしくお願いします。お義父さん」
「…」
何か狙ったわけではない。
ただ、自然と零れた『お義父さん』の言葉。
慧慎は、泣きそうなほど嬉しかった。
「舞香さん、ありがとう。わしを父親と認めてくれるのか」
「…ぁ、すみません。まだそんな関係ではないのに…」
「いや、舞香さんさえ良かったら、そう呼んでくれ。…ああ、泣きそうだ」
「はい、ありがとうございます」
慧慎の喜びように、舞香も嬉しく思った。
思わぬ形で慧悟と出会い、ここまで二人で関係を育ててきた。
今、一番の懸案であった会長であり、父親の慧慎に認めてもらえて、
舞香は、本当に良かったと、安堵感でいっぱいだった。
□◆□◆□◆□
慧悟は、舞香と父親のやり取りを、何処か遠くの出来事のように見ていた。
父親の慧慎は、人の見る目があるのと同時に、簡単に人を信用しない。
まず、疑いの目で相手を見るのが常だった。
関係を求めてくる人物は、徹底的に調べ上げ、
その結果、三宮に害ある場合は、徹底的に叩き潰すような人間だった。
そんな慧慎を、たった1日相手をしただけで、
これほどの信頼を勝ち取った舞香。
慧悟は、慧慎に嫉妬心を抱く暇もなく、
ただ、驚きをもって見ていた。
それから舞香たちは、晩御飯をごちそうになり、
そのまま更に、慧慎の話し相手をしていると、
「舞香、もういいだろう。帰るぞ」
慧悟が痺れを切らして立ち上がり、舞香の手を取った。
「何だ、まだそんな時間じゃないだろう。せっかちだな」
「何とでも。いくぞ、舞香」
「ぁの、えっと、すみません。お義父さん」
「…仕方ない。舞香さん、またおいで」
「はい、今日はご馳走様でした」
「行くぞ」
舞香は、慧悟に引き摺られながら、
どうにか、お礼の言葉を慧慎に伝え、本家を後にした。
蓮の運転する車で、帰路につく。
「………ぁの、慧悟…さん?」
「…」
本家を出てからの、慧悟の機嫌がすこぶる悪い。
どうしたのかと思っていたら、
運転席から蓮が助け舟を出してきた。
「舞香ちゃん、慧悟は、親父さんと舞香ちゃんが、仲良く話すのが面白くなくて、舞香ちゃんが、親父さんの信頼を、いとも簡単に得ていることが、少し悔しいんだ。だから、気にしなくていいよ」
「蓮、うるさい」
「ほーらね。図星だ」
「…」
舞香は、思いがけず慧悟に嫉妬されてしまって、
どうしていいか分からなくなった。
マンションに戻ると、性急に慧悟から求められ、
有無を言わさず組み敷かれ、
朝まで放してくれることは終ぞなく、
とうとうその日、
舞香は、慧悟に抱き潰されてしまったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!