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contents:10 お飾りの末路
三宮ゆかりはその時、実家の自室で悶々としていた。
夫の慧慎は今、あの渡邊舞香と会っているというから尚更だ。
「あの人は、どういうつもりなのかしら…」
三宮家としては、財閥の令嬢と婚姻を結び、
さらに家門の格をあげるべきところなのに、
よりによって、どこの馬とも分からない女を、
一人息子である慧悟に宛がうとは…。
ゆかりは、歯痒く思っていた。
「何としても排除しなくては…」
ゆかりは、なぜ自分が、実家に暇を出されたのか、全く理解していなかった。
そして、舞香排除の為、再び浅知恵を働かせ、
自ら墓穴を掘ることになった。
□◆□◆□◆□
舞香は、いつものように支配人と茜と三人で、
明日の宿泊客への対応の打ち合わせをしていた。
「明日は、特に気を遣うお客様はいないですね」
「はい。いつものお客様ばかりなので、皆、心得ていると思います」
「明日も満室ですから、忙しいですね…」
「大丈夫ですよ。うちのスタッフは皆、優秀ですから」
「そうですね。じゃあ、明日はこれでミーティングを」
「はい。承知しました」
「舞香さん、了解です」
こうして明日の手配を済ませ、帰り支度をしていると、
「舞香」
いつものように、慧悟が迎えに来た。
「社長、お疲れ様です」
「舞香、もう終わったのか?」
「はい、ちょうど今」
「そうか、じゃあ帰ろう」
支配人に後を頼み、舞香は慧悟と帰路についた。
フロントを抜け、エントランスに出た時、
蓮がピリッとした気配を迸らせ、道路の向こう側を窺った。
そんな蓮の機微を茜も感じて、
舞香に気付かれないように、すっと舞香を自分の背に隠した。
しかし、舞香はそんな二人の雰囲気が気になり、声をかけた。
「蓮さん、どうかしましたか?」
「ん?何でもないよ。舞香ちゃん、どうぞ」
舞香に振り向いた時は、いつもの蓮で、
座席のドアを開け、舞香に乗るように促した。
…気のせいだったかな?
そう思い、特にそれ以上考えなかった。
車に乗ると、蓮と慧悟が車の外で何やら話し込む姿が見えた。
そこに茜も加わり、何やら二言三言、言葉を交わして、
三人が面々に所定の座席に乗り込んだ。
やはり、いつもと違う三人に、舞香が今度は慧悟に尋ねる。
「慧悟さん。やっぱり、どうかしましたか?」
「何が?何もないよ?」
「………そうですか。わかりました。ごめんなさい」
何だか聞いてはいけないような気がして、
舞香は、それ以上は聞かなかった。
慧悟は、舞香の頬をするりと撫でて、
「心配ない。舞香は、いつも通りで大丈夫」
「…はい」
心配ないという慧悟の表情は、いつもの慧悟で、
舞香は、少し心に淀みが出来るような気がしたが、
慧悟は、話せるようになったら話してくれるだろうと、
そう思い、話してくれるまで、待つことにした。
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