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『君』は今夜もカタルシスを求める
―――例によって『君』は、無駄に疲れ果てていた。
もうずっと、
『コツコツ積み重ねて、自分が成長した』という実感を得られていない。
金のため、生活のために働く以外の時間で『君』が続けてきた事といえば、
ネットサーフィン、ゲーム、スマホといった具合だ。
労働におけるストレスに加え、
日々何もしていない事による自己嫌悪による精神的疲労。
『君』は、無駄に疲れ果てていた。
(……こんなんじゃ駄目だッ!)
職場への出勤途中、
一日の始まりでまだ余力のある『君』は、
今日こそはちゃんとしたものを食べて、
ネットも控え、
夜はしっかり寝ようと決心した。
これが何百回目の決心かは分からないし、
今までに一度も続かなかった事だって百も承知だ。
だけど、今日こそ……今夜こそ……!
⇨ ⇨ ⇨
そして夜、『君』が帰宅したのは、
昼間立てた予定より3時間も後だった。
終業時刻30分前に、
嫌いな上司に押し付けられた2時間近い残業。
そのストレスという名目で、
帰宅途中にラーメン屋でやけ食い。
さらにはコンビニでスナック菓子やスイーツをしこたま買い込み帰宅。
そして今、『君』は寝床でその菓子をつまみながら、
スマホをいじっている。
「『右手からスマホ、左手からスナック菓子……』」
と、独り言をつぶやきながら、
意味もなく『おすすめの最新ニュース』を閲覧しまくる。
どれもこれも暗い内容ばかり……。
だからこそ見てしまうのか……。
やがて、それも馬鹿バカしくなった『君』は、
そのまま歯も磨かずに布団をかぶり就寝……
したりはしなかった。
絶対に後悔すると分かっている……、
分かっているのに……。
布団の上で横向きになった『君』は、
下になっているほうの手でスマホを操作し、
いつものサイトを開いた。
某小説投稿サイト……。
とにかく『君』は、
『ざまぁ』を見てカタルシスを得たかった。
とにかくざまりたかったのだ。
いつもなら『君』は、『ハイファンタジー』というジャンルの中から『追放もの』の作品を探す。
だが、今の『君』は、
ファンタジー作品には付き物の『激しいバトルシーン』を見る気力さえなかった。
だから『君』が今回選んだのは、
『異世界恋愛』というジャンルだった。
『異世界恋愛』、その中でも『婚約破棄もの』と呼ばれる作品は、
『追放もの』と同じく『主人公を馬鹿にしていた悪役が、そのしっぺ返しをくらう』という、
それでいて『追放もの』のようなバトルシーンがほとんどない、
安全安心のカタルシスを保証するものだ。
その中から『君』が選んだ作品はこれだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~
作者:ジョセフィーネ・剛田
作品名:『踏んでください聖女様! 足の加護なんてみっともないと婚約破棄された聖女のわたくしは、隣国の王子とラブラブしますわ』
……これを読み終わるのは明け方近くだろうか。
だが、『君』は後悔しない。
そう……、
後悔する事を『君』は決して後悔しない……。
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