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少年魔術師、壮大な三角形を描く
♦ ♦ ♦
「カンパーイ!!!!!」」」」」
翌日、冒険者ギルドは一日中どんちゃん騒ぎであった。
打ち取った魔物達はギルドで素材として解体され、
翌日にはその代金が彼らの懐へ・・・というわけである。
「ところで聞いたか?
アルのやつ・・・」
「ああ、
治療院に担ぎ込まれたらしいな」
「オイオイオイ、
死なないよなアイツ・・・」
「今回、
一番の功労者だってのにな」
「あと、
クリスの情状酌量の件な・・・」
「俺としては、
それだけちょっと納得いかないけどな」
「まあまあ。
とりあえずハッピーエンドで何よりって事で」
「俺達も懐が潤ったしな」
「違いねえ!あっはっは!」
懐中が温まれば度量も深くなる。
つまるところ、
冒険者とはそういう分かりやすい者たちなのだ。
♦ ♦ ♦
「はい、アルさん、あ~ん」
「い、いやサーニャ、
自分で食べられるから・・・」
「駄目です。
ベッドから出られるまでは、
わたしの言う事を聞いてもらいます」
そう言って切り分けた果物を押し付けてくるサーニャと、
恥ずかしさから無駄な抵抗をしてしまうアル。
―――あの戦いから一週間。
見た目こそ回復したものの、
まだまだ身体に蓄積されたダメージは取れない。
だが、
アル達は勝ったのだ。
ダンジョンの主である、
『魔の根源』に・・・!
―――あの時・・・、
アルが唇を重ねた直後、
【あああッ!!!!】
クリスの全身から黒い霧状のものが噴出され、
同時にその表情と瞳に、
自我の輝きが戻ったのである。
「ア、アル・・・」
「クリス!」
今しがた起きた出来事に狼狽するクリスと、
構わずさらに抱擁してくるアル。
「ちょっ・・・!
アル・・・!?」
「そのまま押さえていてください、アルさん!」
と、こちらへ猛然と迫ってくるサーニャ。
その手に握られた退魔の聖剣・・・!
「ひっ・・・!」
クリスは思わず目をつむった。
だが、サーニャはその直前で、
地面を蹴って二人の真上へと跳躍!
その上空に漂うクリスの身体から追い出された黒い瘴気、
『魔の根源』・・・!
その邪悪なる存在に向かって、
サーニャは聖剣を振り下ろした!!
【ウボァァ――ッ❕❕❕❕】
断末魔の叫びと共に『魔』は霧散し、
そして、かき消えたのである・・・。
―――今でもアルには分からない。
あの瞬間、クリスに自我が戻ったため、
『魔』がはじき出された。
(けれど・・・)
何故あれでクリスは正気に戻れたのか・・・?
本人に聞こうにも、
あれからクリスとは会えていない。
だから代わりに、
発案者のサーニャに聞いてみたのだが、
「はぁ・・・、
ちょっとだけクリスさんに同情します」
と、何故かため息をつかれる始末・・・。
と、そこへ、
コンコンコンとノックの音が。
「はい」
と、アルが返事をすると、
ためらいがちにドアが開き、
入ってきたのは・・・
「クリス!」
「アル・・・」
あれ以来だった。
そんな二人を見て、
「(しまった・・・、
『面会謝絶』の札を出すのを忘れていました・・・)」
と、つぶやくサーニャ。
そんな彼女にクリスは遠慮がちに、
「悪いけど、
少しだけ外してくれないか・・・?
アルと・・・二人で話がしたいんだ」
と、頼んできた。
それに対しサーニャは、
「分かりました」
と、あっさり承諾したかと思いきや、
すれ違いざまに、
「あなたはわたしに借りがあります。
抜け駆けは禁止ですからね」
と、何か釘を刺している。
「分かって、いる・・・」
悔しそうな顔をするクリス。
「?」
アルには二人のやり取りがさっぱり分からない。
そして、
部屋には二人だけとなり、
しばしの沈黙。
「クリス・・・、」
「アル・・・、わたしは・・・」
何か言おうとしたアルだが、
それにかぶさるようにクリスがくちびを切った。
「わたしは・・・、お前が気に入らなかった・・・。
ひとり後からパーティーに加わったくせに、
わたし達に意見してきたり・・・、
何の得にもならないのに、
身銭を切って赤の他人を助けたり・・・、
さんざんわたし達に世話をかけていたお前が、
一番周りの評価を受けたり・・・」
「うん・・・」
「パーティーの雑用を全て押し付けても、
分け前がわたし達より少なくても、
手柄をわたし達で独り占めしても文句ひとつ言わず、
金魚のフンみたく付いてきたくせに、
クビにした途端あっさりわたし達を・・・、
わたしから離れていったり・・・!」
(・・・ん?)
「だけど・・・、
今回の事はお前に助けられた。
それは事実だ。
だから、
それに関しては礼を言っておく・・・」
「あ、うん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・再び沈黙。
アルは妙に落ち着かなかった。
今までのクリスと何か違う。
そもそもこれまで彼女が、
こんな風に薄化粧をしてスカートを履いた姿など見たことがなかった。
何故か自分と目を合わせようとしないし・・・。
(あ・・・)
その時、
改めてアルは思い出した。
自分が彼女に何をしたか・・・。
「クリス、ごめん!」
「え?」
いきなり頭を下げるアルに、
クリスはびっくりした。
「あの時、
僕は君に無理やり抱きついて、
その上、その・・・」
「あ・・・」
何の事か分かったクリスも、
真っ赤になってうつむいてしまう。
「ごめんッ!
でも、信じてほしいんだ!
あれは君を助けるために仕方なくやったことで・・・!」
「え・・・」
「誓って言うけど、本当に、
変な気持ちとかは全然なかったから・・・」
「・・・・・・」
・・・返事はない。
(・・・・・・あれ?)
アルが恐る恐る顔を上げると、
そこには全身をプルプルと震わせているクリスが・・・。
「・・・クリス?」
「アルの・・・」
「え?」
「アルの・・・
馬鹿ぁ―――――ッ❕❕❕❕」
治療院中に響き渡ろうかという彼女の怒声に、
廊下にいたサーニャはため息をついた。
「はぁ・・・、ライバルとしてはいい気味ですが、
同じ立場としては・・・、少々同情しますね・・・」
♦ ♦ ♦
これが、後に『蛇神使いの英雄』と呼ばれるアル達の
最初の偉業である。
その後、彼らは幾多の『魔』を打ち倒し、
数えきれないほどの功績を残し、
人々の生活に寄り添い、
その平穏を支え続ける事になるのだが・・・、
それはまたいずれ、
別の場所で語るとしよう。
【Fin】
_______________________
《あとがき》
これで完結です!
いや~、第一話を描き始めてから約10年!
何度も更新が止まってしまい、
申し訳ありませんでしたっっ(土下座)!!
ですが、それにもかかわらず、
最後まで見捨てずにお付き合いくださった皆様・・・、
本当にありがとうございましたっっっっ!!!!!
では、また次回作でお会いしましょう!
あ、最後にスクロールして、
下の『応援ボタン』と星をプッシュするのをお忘れなく!!
出来れば、作品へのレビューもよろしくです!!!
以上、成嶋幸児でした~♪
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作者:成嶋 幸児
作品名:『魔法陣は十人十色! 品のない理由で冒険者パーティーをクビになった少年魔術師、その品性に惹かれた新しい仲間と共にのし上がる』
―――読了。
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