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読了後の『君』の夜
🌙 🏠 📱
「……ちょっと待てコラ」
読了後、
『君』は思わずスマホの画面にツッコミを入れてしまった。
日頃の疲労やら、ストレスやら、孤独やらのあれこれが溜まりまくった『君』が作品に求めていたのは、
物語そのものの面白さではなく、
カタルシスだった。
寝る時間にもかかわらず、
ついつい布団の中でスマホを手に取り、
某小説投稿サイトを開いて、
いわゆる『追放もの』作品を検索。
剣と魔法のファンタジーの世界で、
主人公を役立たずと馬鹿にしてパーティーから追放したリーダーが、
その後どんどん落ちぶれてみじめな目に合うことで、
ようやく主人公の力に気づきパーティーに戻そうとするが、
既に新しい仲間と成功を収めた主人公は、かつてのリーダーを歯牙にもかけない。
今度は逆に自分のほうが、
主人公に見捨てられてしまうのだ。
そんな落ちぶれたリーダーがひどい目にあえばあうほど、
読者は気持ちがスッキリするという、
『追放もの』の作品を読むことで得られる歪んだカタルシス……、
いわゆる『ざまぁ』の要素を求めて『君』は閲覧を開始。
半ば依存的に、
『君』はその作品を読み続けた。
そして、最後まで閲覧した結果が……これである。
何?
クリスって女だったの?
いや確かに、読み返してみると、
それを匂わせる描写がちらほらあったけど……。
いや、でも……。
じゃあ結局…、
これってただの痴話げんか!?
好きな男に自分を常に見てほしい、
自分を頼ってほしい、
自分に従ってほしい、
逆らわないでほしい、
追いかけてきてほしい、
捨てても泣いてすがってほしい……、
そんな歪んだ愛情を持った女と、
そこから解放された男…、
さらに新しい女の間で繰り広げられる、
いわゆる三角関係もの?
『ざまぁ』でも何でもなく!?
『追放もの』なのに…
何、このオチ……。
(…………)
「……ざまらない……」
ふとつぶやいた造語だが、
読了後の感想としてはピッタリだった。
深夜を過ぎてまで読み続けた『君』だが、
求めていたカタルシスを得ることのないまま、
作品は終了した。
そう……、
『君』はざまれなかったのだ。
後に残ったのは、
長時間のスマホ使用による脳の疲労と覚醒……、
そして翌日(正確には既に今日)は間違いなく寝不足だ、
という憂鬱な気持ちと激しい後悔……。
(最後まで読んでしまった以上、
礼儀として『評価』はするが・・・)
……もう何度、
同じ失敗を繰り返しただろう。
何度深夜に自己嫌悪におちいったことだろう……。
だが、遠くない夜、
『君』はまたやらかすだろう。
布団の中でスマホ片手に、
癒しの物語を求めるのだ。
そう、
『君』はまだ……、
この沼から抜け出せない……。
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