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俺は明に逆らえない理由があった。数年前にクラスメイトの前で恥をかかせたことがあるのだ。
『こいつがキモいだけだって』
その時、俺はまだ中学生で、ただの子供だった。
それでも明を深く傷つけたことにかわりはない。結局年齢は何の言い訳にもならないのだ。
あれから2年、明にはずっと会っていなかったのだ。
玄関に回ると母さんが洗濯物を取り込んでいた。
「あら明君、久しぶりじゃない」
「おばさん、こんにちは」
「母さん、ちょっと明と出かけてくる」
「あらそうなの?気を付けてね」
青白い顔の明は大人しく見えるので、母さんのお気に入りだった。
『これからむかつくヤツを全員殺しに行くらしいよ』とは言わないでおこう。
「夏が終わったら地球が終わるらしいわよ」
「そうみたいですね」
母さんと明のやりとりは、ありがちな世間話みたいにぬるいテンションだった。
地球最後の夏ということで治安が悪くなるのかなと思ったら、そうでも無かった。
ごろつきどもがお年寄りを襲撃することもなく、おまわりさんが四六時中街をうろうろしていることもない。自警団がデモ行進することもない。
みんな結局は何をしていいかわからないんだと思う。
「伊坂幸太郎の小説みたいだな」
「何それ?」
「『終末のフール』だよ。そんなことも知らないのかよ、冗談は顔だけにしとけよ」
明が真顔で毒づいた。
「そのうち、読んどくよ」
「その前に死ぬだろ」
前はこんな時に「うん。読んでみなよ」って微笑んでくれる優しいヤツだったのに、会わない数年のうちにキャラが変わってしまった。
世紀末のせいだろうか?それとも俺のせいだろうか?
「ところで、どこに行くの?」
「あの世だよ」
怖い。
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