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着いたのはあの世ではなく「街のホームセンター 『ワクワク堂』」だった。
花の種から、工事用品まで売ってる便利なお店だ。
茶色いエプロン姿の店員のお兄さんは、知り合いらしき人と楽しそうにお喋りしている。世紀末だから売り上げも気にしていないのだろうか。
話し相手の眼鏡をかけた優しそうなお兄さんは、昔の明に似ていた。明も数年前はこんな風に穏やかな雰囲気を持っていた。
「すいません、スコップとかバールはどこに売ってますか?」
「この先の一号館ですね」
「ありがとうございます」
丁寧にお礼を言うところは、昔と変わらずしっかりしている。
「スコップやバールを買ってどうするのさ?」
明は返事もしなかった。
怖い。
そもそも夏の終わりはセンチメンタルになるものだ。
日中は暑くても、朝晩は涼しい。青春が終わっていくような儚げな寂しさ。
明は昔から夏の終わりのような、触れたら消えてしまいそうな儚げな雰囲気を持っていた。
正直、美しかった。
俺は明が好きだった。
「武器になるものが何もねえじゃねか」
明は儚げの"は"の字も感じさせない、ドスの効いた声を出した。
「武器を探してたのか?」
「ぶちのめしに行くのに、素手ごろじゃ話にならないだろ?」
素手ごろ?
スコップやバールの工具が置いてあるコーナーは、軒並み『お取り扱いしておりません』と張り紙がしてある。
仕方なく調理道具のコーナーに向かうと、包丁も、のし棒(パンとか麺を伸ばす道具)も『購入には事前の申請が必要です』と書かれていて、現品は置かれていない。
包丁はともかく、のし棒を買うのにも申請が必要なのか?猟銃みたいだな。
「なんか世紀末っぽいな」
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