パラレルワールド

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
「すみません。あの、すみません」  昼休み。高校の図書室で読書に夢中になっていたら、唐突に声をかけられた。  顔を上げると、目の前にはおかっぱ頭に黒髪、眼鏡。文系美少女と表現するのが適切そうな、清楚でおとなしそうな雰囲気の女の子が立っていた。  俺が図書委員になって約一年半。昼休みに出入りする生徒は、二年生以上ならだいたい決まっている。しかし、彼女を見た記憶はない。だからたぶん、一年生なのだろう。 「あー、はいはい。貸し出しですか? 返却ですか?」 「いえ、あの、その、ある本の場所を知りたくて」 「どんな本ですか?」 「えっと、その……あの……」  なぜか、もじもじして赤くなった。 「人には言えないような、恥ずかしい本なのかな……」 「え? あ! ち、違います!」 「しまった! 心の声が外に出ていた!」 「あの……心の声、まだ出てます……」  こちらが赤くなる番だった。 「と、ところで、ある本とは?」 「そうでした。あの、パラレルワールドものの本って、どこら辺にありますか?」 「パラレル? ワード? ですか?」 「違います! パラレル・ワー・ル・ドです! 別名、並行世界。世の事象の、様々な可能性の果てに生まれた、もうひとつの現実世界です!」 「へ、へー」  文系美少女の口調に、熱がこもる。 「並行世界はSFとか架空の物語だけではなく、論理物理学でもいくつかの仮説があって」  どうやら、得意な話題になると口数が多くなるタイプらしい。  その時、俺は思いついた。 「そうだ! 並行世界へ行こう! へいこうだけに!」 「…………」 「面白かったら、笑ってもいいんですよ!」 「つまらなくて、閉口してるんです!」 「あ! へいこうだけに!!」 「違います!! もういいです! 自分で探します!」  文系美少女はぷいっと振り向き、奥の本棚へと消えた。 「ああ、俺のダジャレが受ける並行世界へ行きたい……」  もうすぐ予鈴だ。俺は読んでいた本に、しおりをはさむのだった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!