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「すみません。あの、すみません」
昼休み。高校の図書室で読書に夢中になっていたら、唐突に声をかけられた。
顔を上げると、目の前にはおかっぱ頭に黒髪、眼鏡。文系美少女と表現するのが適切そうな、清楚でおとなしそうな雰囲気の女の子が立っていた。
俺が図書委員になって約一年半。昼休みに出入りする生徒は、二年生以上ならだいたい決まっている。しかし、彼女を見た記憶はない。だからたぶん、一年生なのだろう。
「あー、はいはい。貸し出しですか? 返却ですか?」
「いえ、あの、その、ある本の場所を知りたくて」
「どんな本ですか?」
「えっと、その……あの……」
なぜか、もじもじして赤くなった。
「人には言えないような、恥ずかしい本なのかな……」
「え? あ! ち、違います!」
「しまった! 心の声が外に出ていた!」
「あの……心の声、まだ出てます……」
こちらが赤くなる番だった。
「と、ところで、ある本とは?」
「そうでした。あの、パラレルワールドものの本って、どこら辺にありますか?」
「パラレル? ワード? ですか?」
「違います! パラレル・ワー・ル・ドです! 別名、並行世界。世の事象の、様々な可能性の果てに生まれた、もうひとつの現実世界です!」
「へ、へー」
文系美少女の口調に、熱がこもる。
「並行世界はSFとか架空の物語だけではなく、論理物理学でもいくつかの仮説があって」
どうやら、得意な話題になると口数が多くなるタイプらしい。
その時、俺は思いついた。
「そうだ! 並行世界へ行こう! へいこうだけに!」
「…………」
「面白かったら、笑ってもいいんですよ!」
「つまらなくて、閉口してるんです!」
「あ! へいこうだけに!!」
「違います!! もういいです! 自分で探します!」
文系美少女はぷいっと振り向き、奥の本棚へと消えた。
「ああ、俺のダジャレが受ける並行世界へ行きたい……」
もうすぐ予鈴だ。俺は読んでいた本に、しおりをはさむのだった。
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