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* * *
嶺歌は先程のやり取りを見てから察していた。そう、これは絶対…………
「元カノですよね?」
「嶺歌さん、流石の洞察力でございます」
兜悟朗と二人、小さなカフェで向かい合っている時、嶺歌は単刀直入に先程の女性の事を問い掛けていた。いや、もはや確信していたため問い掛けたと言うより、確かめたと言うのが正しいだろう。
「お気付きになられていましたか」
兜悟朗はそう言って困ったように薄く笑う。あの空気感はどう見ても元恋人以外に思いつかなかった為、洞察力が優れている訳ではないと、嶺歌は自分の思った事を率直に口に出す。
「女の勘です。やっぱりそうですよね」
「お見事です」
兜悟朗は否定をする事はしない。
ただやはり、彼の性格からして嶺歌を気遣ってくれての黙秘だったのであろう事は理解できていた。
兜悟朗としても元恋人に偶然会ってしまった事を今の恋人に伝えるのは酷だと感じているのだろう。
そんな事を思いながら彼を見つめていると兜悟朗は、少しだけ困った表情を見せた後に、こんな言葉を付け足してきた。
「そうですね、彼女は僕が愛せなかった女性の一人です」
(愛せなかった…………)
それを聞いて嶺歌は兜悟朗の過去の話を思い出す。
兜悟朗は嶺歌と付き合う前に女性経験こそあったものの、本物の恋心というものを知らなかったのだ。
彼は口にしないが、きっと愛する事が出来なかった元恋人たちに少なからず罪悪感のようなものを感じているのかもしれない。
それを瞬時に思い起こした嶺歌は兜悟朗の目に視線を向ける。すると彼の深緑色の瞳と、目が合った。
「今は、愛せる女性が隣におります。とても幸せな事です」
「……っ」
(うわあ……)
目が重なるように合わさった瞬間そう告げられた嶺歌は、途端に顔が真っ赤に染め上がる。そんなのは反則だ。兜悟朗は紛れもなく元カノに未練などない。
それは嶺歌自身がよく分かっており、そんな不安を一ミリも感じさせない程に兜悟朗はこちらへとんでもない愛情を向けてくれているのだ。
「嶺歌さん、いつもありがとうございます」
「そんなの、あたしの台詞ですよそれ……」
赤らめた顔を手で隠し、そう兜悟朗に言葉を向けると、兜悟朗は優しい微笑みを向けながら嶺歌の頭を愛おしげに撫でてくる。ああ本当にもう、この人には敵いそうにない。
「嶺歌さん、大好きです」
「あたしも……好きです。だいすき」
「はい、とても嬉しく思います」
「……はい」
「嶺歌さんは愛おしいお方です」
「………」
そんなやり取りをして最終的に赤面して黙りこくる事しか出来なくなった嶺歌は、しばし兜悟朗から温かな手の温もりを浴びせられるのであった。
二人の距離が更に縮まった事は、もはや言うまでもなく。
* * *
end
最後まで閲覧いただきありがとうございます!兜悟朗は結局恋を知れずに雨峯と別れましたが、そんな彼が嶺歌と恋仲になるまでのエピソードが本編でご覧になれます。
序盤と終盤の嶺歌と兜悟朗は、本編の完結から数週間後の二人です。
こちらで作品に興味をお持ちいただけましたら是非本編の方もご覧下さいますと幸いです。【https://estar.jp/novels/26050968】
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