元恋人

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「悲しい思いをさせて本当にごめんね」 「私の事、やっぱり好きになれなかった?」  彼の謝罪自体が「最後まで一人の女の子として好きになれずにごめん」と言われたようなものであったのだが、きちんと確かめておきたかった。未練を残したくはないのだ。  すると、兜悟朗は口ごもりながらこちらに視線を向けて話すのを躊躇っていた。雨峯はその様子を見てすかさず声を上げる。 「最後だからちゃんと教えてほしい。言ってくれたら……諦めるから」  そう真剣に言葉にすると、兜悟朗は尚も心苦しそうな表情をして、しかしきちんと要望に応える。 「人として小野さんの事はとても好きだよ。だけど、女性としての好きにはなれなかった」 「そっか…」  もうこれ以上の言葉は必要ない。  好かれてはいても、愛ではない好意を雨峯は受け入れる事ができない。  そう再認識した雨峯は、頭を深く下げて謝罪してくる兜悟朗を泣きそうな目で見つめながら「さよなら」と残すとそのまま振り返らずに立ち去って行った。本当に――素敵な彼氏だったと僅かな後悔を残しながら。  付き合って一年が経っても互いの呼び方は苗字呼びから変わる事がなかった。  下の名前で呼び合いたいと思った事は何度もある。だがそれを雨峯から提案する事は出来なかった。 ――――――宇島くんが私を本当に好きになってくれたら、呼んでもらいたい  そう思っていたからだ。だが兜悟朗が雨峯を好いてくれることはなかった。ずっと他人行儀のような苗字呼びは変わる事なく二人の関係は終わりを迎えたのだ。  これが自分たちの運命なのだ。それを雨峯は一人で泣きながら受け入れていた。
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