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(あれからもう十年以上経つのか)
夕飯の支度をしながら昔の初恋を思い出していた雨峯は、それからつい昼間に見た兜悟朗の恋人の姿を思い浮かべる。
私服であったため実際のところ年齢は分からないが、彼とは歳が随分離れている印象だった。しかし見た瞬間にとてもお似合いだと感じたのも事実だ。
(それに……)
兜悟朗の彼女を見ている視線は、雨峯が今までに見た事のない愛情に溢れた視線だった。
一年間彼と交際していた雨峯には一度として向けられた事のないあの視線は、彼が特別な相手を見つけた何よりの証拠なのだろう。
(凄く、幸せそうだったな)
兜悟朗が今の恋人を如何に愛し、大切にしているのか、久しぶりにそれもたった一瞬会っただけで分かってしまうのだ。
きっと雨峯が想像する以上に二人の愛は深いのだろう。
それとは対照的なあの頃の自分を思うと、少し切ない感情が生まれてくるが、しかし雨峯は今とても幸せだ。だからなのか、彼が真の愛を見つけられていた事が心から嬉しいと思えている自分がいた。
(よし! 夕飯もっと作るか!)
自然と笑みが溢れ、愛しい娘と夫の顔を思い浮かべながら雨峯は気合いを入れる。
そうしてもう二度と会う事がないであろう元恋人の事をすっぱり忘れると、鼻歌まじりで料理に精を出すのであった――――。
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