元恋人

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 しかしそれも長くはなかった。  キスのその先が、また欲しかったのだ。  けれど兜悟朗からその先を求められる事はない。キスだってしてはくれるものの、いつもこちらから求めなければしてくれる事はない。やはりまだ、彼は自分の事を真に愛してはくれていないのだと、そう感じざるを得なかった。  いつも優しい兜悟朗は、その素晴らしい程に秀でた才能で校内ではいつも目立っていた。  そして謙虚な姿勢を見せる彼はどんな女性からも好かれていた。ゆえに恋人という雨峯の存在があろうとも、彼が密かに別の女性から告白を受けていたり、多くの女子生徒から好かれている事も知っていた。  一度兜悟朗の告白現場を見てしまった事がある。彼は自分の事など好きではないのだから、乗り換えられてしまうかもしれない。雨峯はそんな恐怖心でその場から動けなかった。 「僕には大切な恋人がいるから君からの告白には応えられないよ。ごめんね」  しかし兜悟朗が告白を受ける事はなく、瞬時にはっきりと断っていた。  それを目の当たりにした雨峯は、彼がとてつもなく愛おしくなり、好かれていなくともそばに居たいと強く感じるようになっていた。迷う事なく即答してくれた事実が、本当に嬉しかったのだ。嬉しかったのだが――  大切な恋人――――その言葉が、嘘偽りない事は雨峯が一番よく理解していた。ただそれが、一人の女としての意味ではない事も知っていた。だからこそ、とても……やるせない思いにもなっていたのだ。
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