3人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
兜悟朗は完璧な彼氏だ。
優しく穏やかで、思い通りに行かなくても決してこちらを責めたりなどしない。
いつも我儘を受け入れてくれ、誕生日のサプライズも完璧だ。
デートの際にはこちらを喜ばせようと想像の百倍素敵な事をしてくれる。いつだって身だしなみに気を遣い、こちらの些細な変化にも気付いては褒めてくれる。そんな素敵な男性だ。だけど――――
(愛が、欲しい)
そう、そんな完璧で素晴らしい彼氏でも愛だけはくれなかった。雨峯を愛する事を、彼は出来ないのだと、ようやく気付けたのは兜悟朗と付き合って一年後の事だった。
兜悟朗がこちらを大切に思い、人として好いてくれていることは分かっている。兜悟朗は決して口にはしないが、彼が雨峯を突き放さないのは、彼自身もこちらを好いてくれようと、愛そうと努力してくれているからだという事にも気付いている。
だがその好きが恋としての好きになる事は絶対的にない事も、ここにきて分かってしまった。だからこそ雨峯は、兜悟朗に別れを告げる事にしたのだ。
「宇島くん、ごめん。別れよう」
少しだけ、反対してくれる事を期待した。もしかしたら最後の最後で、惜しいと思って愛に変わってくれるのではないかと期待してしまう自分に嫌気がさしながらもその感情を完全に消し飛ばす事は出来なかった。
だが兜悟朗は――――寂しそうにこちらを見てただ静かに頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!