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元恋人
* * *
「宇島くん?」
聞き慣れない女性の落ち着いた声が聞こえる。和泉嶺歌は自身の恋人――宇島兜悟朗の名を呼ぶ人物を振り返ると、そこには幼い少女と手を繋いだ一人の女性が立っていた。
「小野さん、久しぶりだね」
瞬時に彼女を『小野さん』と呼称した兜悟朗は、その女性――小野と知り合いのようだ。
「ママーだれ?」
すると小野と手を繋いでいた幼い女の子はママと呼ぶ女性を見上げながら不思議そうに尋ねる。小野は幼女に優しい笑みを向けながら「ママの昔の同級生よ」と答えていた。
「こんにちは。可愛らしいお子さんだね」
「ありがとう。久しぶり、上京してたんだね」
そう言って小野がチラリと嶺歌を見る。嶺歌は挨拶のタイミングがきた事を悟り、名乗りあげようと口を開くがそれより先に兜悟朗に紹介される形となっていた。
「こちらは僕の恋人の嶺歌さん。嶺歌さん、この方は僕の高校時代の同級生です」
「初めまして。お子さん、凄く可愛いですね」
「初めまして、どうもありがとう。自慢の娘なので、嬉しいです」
「ママ、めめ、ほめられてりゅ」
「うん、そうだよ。めめ良かったね」
小野はそう言葉を向けて自身の娘を愛おしげに撫でるとすぐに立ち上がり「それじゃあ」と小さく会釈をして立ち去っていく。
その様子を兜悟朗と嶺歌は小さく手を振りながら見送っていた――。
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