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「どうして…」
「どうしてはこっちが言いたい…。なぜ、お前がその衣を纏っている」
「……」
「おい、まただんまりか?」
「ケイヤ、悪いが時間が無い。そこを通せ」
「うるさい!僕がコウヤだ!そいつは僕の兄のケイヤ!僕が、僕が本物のコウヤだ!」
村長の言葉に楯突いて、本当のことを明かした。ぼろぼろと涙が溢れる。
何が起こっているのかわからない。でもケイヤがコウヤである僕を庇って何か細工をしたのだということは、嫌というほどわかった。僕がケイヤである限り、僕は生贄にはなれない。きっと本当の生贄はコウヤだったのだ。
「何を馬鹿なことを」
「本当だ!信じてくれ…!」
村長が信じようとしないのも無理はなかった。ずっとケイヤがコウヤ、コウヤがケイヤとして生きてきたのだ。今さら無理だ。
わかっているのに、止まらない。だってこんなのあんまりだ。意味がわからない。あまりにも悲惨で、酷く、卑怯じゃないか。
「…兄さん、本当のことを言ってくれ…。生贄になるべきは、僕だろ…コウヤなんだろ?」
「……」
「ずっと、ずっと恨んでたんだ…。兄さんのことを何度も夢の中で殺した…。どうしてずっと黙っていたんだ…、たった一人の、家族じゃないか」
復讐を誓ったあの日見た月夜が歪んでいく。幼い頃から追いかけてきた兄の背中、共に繋いできた手の温もり、それらが今という状況を残酷に色づかせる。
ずっと二人一緒だって、約束したのに。
「…コウヤ」
本当の名前を呼ばれて、顔をあげた。白装束に身を包み、白粉に塗られたケイヤの顔は生気の見えないものだった。
「ケイ、ヤ…」
「お前は泣き虫だな。そんなに僕と一緒にいたいか?」
「…っごめ、なさい…、何も知らなくて、ケイヤを恨んだ…」
「謝るな。お前は何も悪くない」
「…っ」
「お前は、ただ頭を打ってこんなにもおかしくなってしまっただけじゃないか」
「…………え……?」
「ケイヤはお前だろ?」
瞬間、腹部に重く鈍い衝撃が伝わり、胃や腸が潰された。これ以上ないほどの吐き気と苦しさに、ぐらりと視界が揺れる。身体を支えきれず、膝から床に崩れたとき、涙でぼやけた先でケイヤが「ごめんな」と謝っているのが見えた。
僕がしようとしていた復讐と同じ手口で、僕はケイヤに、守られてしまうのだと、真っ白になる思考の寸前に理解した。
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