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僕とケイヤは二人でひとつだった。いつも一緒で、困難にも二人で立ち向かった。決して裕福ではない暮らしもケイヤとなら幸せだった。そう、ケイヤとなら、なんだってよかったのだ。
「…コウヤ」
「どうしたケイヤ」
「…いつまでそんな嘘を続けるの」
「何を言っている。頭がおかしくなってしまったのか」
「僕が?」
「激流に流されたときに岩肌に頭でも打ったのだろう。可哀想に」
頭を撫でられて彼に抱きしめられる。そう言われれば、傷なんてないはずの頭がむず痒い気がした。
魚を獲るために、いつもより遠い川に二人で来ていた。たくさんのワナを仕掛けて、時間が経つのを川辺で待っていると、山のほうで大雨が降ったらしく、瞬く間に川は洪水のように溢れ出した。
「___っ!」
激流の中で、必死に手を伸ばしたのを覚えている。そのとき自分が何と言って彼に手を伸ばしたのか、彼が何と言って僕に手を伸ばしたのか、肝心なところはモヤがかかったように思い出せない。
目が覚めるとびしょ濡れの僕は、同じくびしょ濡れの彼に抱きかかえられ、家に戻っていた。気がつけばいつの間にか、僕はケイヤで彼はコウヤだった。
「…僕がケイヤなのか」
「そうだぞ、ようやく思い出したか」
「ううん、思い出してはいないんだ。でも、コウヤがそう言うんならそうなんだろう」
眉を下げて安心したように笑う。その笑顔を見て、二人でいられるなら本当のことなどどうでもいいと、そのときは思った。
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