ケイヤとコウヤ

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 7年という月日は長いようで儚く、僕もコウヤもまもなく成人を迎える頃だった。  ある暮れのこと、婆やはご飯の用意をしながら、ふと天を仰いだ。 「婆や?どうしたの?」 「…二十年(はたとせ)じゃ」 「何が?」 「お前たちの父親が神に身を捧げてから、今日でちょうど二十年。そろそろお前たちもそれぞれ妻を迎える準備をせねばなるまい」 「…神に?」 「婆や、ご飯は?」  尋ねる僕に割って入るように、コウヤが婆やの茶碗を手にして聞いた。わしゃもう食ったぞ、と答えた婆やに改めて同じことを聞く。 「婆や、神に身を捧げるって言った?」 「そうじゃ。言わんかったかの」 「ご飯を食べよう」 「待ってコウヤ。ごめん婆や、記憶が曖昧なんだ。父さんはどうして死んだの?」 「ケイヤ、その話は終いだ」 「婆や、教えて」 「生贄じゃよ」  婆やが天を見つめたまま、人差し指を上に指す。ふるふると震えるその指先が、婆やの老いを感じさせる。 「水神家の長男は25歳になると神様の生贄としてその身を捧げる。村に恵の雨を、豊かな土を、穏やかな陽の光をもたらしてくれるよう、神に願うのだ」  言い終えて満足したのか、何事もなかったかのように箸を取り、米を口に運んだ。その老いぼれの姿を見つめながら、頭の中で感じていた違和感の点と点を結び繋ぐ。  忘れていた。聞いたことのある話だ。あれはまだ生まれてから10にもならない年月の頃、婆やが今と同じことを話してくれた。僕たちの両親がなぜこの世にいないのかを。  隣を見た。彼は居心地が悪そうに眉間にシワを寄せ、時が解決するのを待つかのごとく、ただ静かに食事をしている。ピキピキと、二人の仲に亀裂が入る音を聞いた。瞬間、怒りに駆り立てられるように彼の胸ぐらを掴んでいた。 「ケイヤ」 「僕をその名で呼ぶな!」 「喧嘩なら外だ。表で話そう」 「上等だ、この人殺しが」
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