ケイヤとコウヤ

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 婆やはもう耳が遠くなってしまったというのに、家の裏山へ踏み入って、月明かりのみが届く木々の間で、僕は片割れの頬を殴った。 「裏切り者」 「……」 「僕はコウヤだ。ケイヤ、つまりお前の弟のコウヤ。違うか?」 「……」 「なんとか言え卑怯者っ!」 「…生贄になりたくないがためにお前や他を欺いて、コウヤだと偽った。…そう言えば満足か?」 「っ!」  胸ぐらを掴んで木幹に押さえつけた。一瞬だけ歪んだ彼の顔が、すぐに弧を描いたように不気味に笑う。 「哀れなものだな。今さら気づいたところで、誰もお前の言うことなんか信じない。7年もケイヤとして生きてきたのだからな」 「…っ貴様、殺してやる…!」 「殺してどうする?裏切り者で嘘つきの罪人だと村人たちに晒すか?それでお前はどうなる?この村から逃げ出さない限り、生贄としてその命を散らすことに変わりはない」  胸ぐらを掴む手に力を込めた。が、その手を捕まれ、気づけば足をかけられ地面に叩きつけられていた。  まん丸の月を隠すように、真上に憎き片割れの嘲笑った顔が覗き込む。 「せいぜい残りの人生を楽しむんだな、ケイヤ?」  遠のいていく足音を聞きながら、湧き上がる怒りを腹から、喉から、吐き出した。 「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」  拳で地を叩く。 「くそ、くそ、くそぉぉぉぉぉ!!許さない、許さない、許さない…!!」  小石に叩きつけられて、拳に血が滲もうが、憤怒は収まらない。雄叫びに身を任せて、双子の縁を抹消した。 「殺す、殺してやる…っ!道連れにしてやる…っ!!」  片割れが去っていった道を睨みつけながら、唸り声で誓った。復讐となる野望を見ていたのは月だけだった。
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