ケイヤとコウヤ

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 8月6日、晴れ。太陽が照りつける乾いた地で、決して派手とは言えない祭りが始まった。人々は数少ない食料をかき集め、集った食卓に並べ、むしゃぶりつくした。子どもから大人までが踊り狂い、老人は天に向かって頭を垂れた。  僕は必死にコウヤと偽るケイヤを探した。見当たらないのだ。いないはずはない。あいつは特等席で僕のことを見届けなければならない人物だ。そうして一緒に地獄に堕ちなければならないのだ。  草木をかき分け、村中の家を勝手に出入って血眼になって探した。しかし見つからない。 「…逃げやがったのか」  あの裏切り者のことだから、僕のことを一番近くで嘲笑うものだと思って疑わなかった。しかしどうか。恐れを生して逃げ出したのか。僕の最期を見届けることもなく、自分だけ。  どうして、お前を、家族などと言えよう。  怒り狂い、おかしくなってしまいそうになった僕の目の前に、ふと一人の少女が現れた。目は大きく、耳が小さい。ケイヤにそっくりである。 「…お前、は」 「父…?」 「…ああ、そうか、ケイヤの子か。お前の父はどこにいる」 「あそこ」  あそこ、と小さな指が指したのは、色とりどりの花が飾られた祭壇だった。当たり前だが、ここから見る限り、そこにケイヤの姿はない。 「父、神様」 「…え?」 「神様になる」  たかが幼児の戯言である。そう流せばよかったのだ。しかしどうだろう、心の臓が嫌に跳ねる。  違和感。なぜケイヤはこんなにも早く子を為したのか。人生長い目で見れば、もっと妻も選りすぐりから選べばよかったのに。  違和感。あの日、ケイヤは笑っていた。他者と自らをも欺き、コウヤとして生きるケイヤは、月に見下ろされ決別したあの日、僕を見て確かに笑っていたのだ。しかし、泣いていなかったか。それを"哀れに思いすぎた慈悲の涙"と解釈していたが、そんなわけがなかろう。なぜこんなときに僕は違和感を受け止めてしまうのか。  走って祭壇の裏へと回った。祭壇は大きく、成人男性が優に3人は入るような空洞があった。裏には扉があり、躊躇なくそこを開けた。 「っ!?」  中には村長とケイヤの妻、そして白装束に身を包んだケイヤがいた。
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