偽物の家族・同情と復讐

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おそらく、この父子と姉妹は、互いが父子・姉妹同士で結婚したことにも気付いていなかったのかもしれない。 しかし、加奈子は頭の回転が早い。牧瀬啓介が老舗の和菓子屋の跡取りだと聞いていたのだから、その和菓子屋を探し出して、自ら会った事もない啓介の家族に会いに行った可能性も否定できない。牧瀬力も直美も…そして加奈子も…その当時、互いの話を聞きながら、何が起こっているのか察したはずだ。 そして同じ頃、本物の牧瀬加奈子は非行に走り、行方不明になっていた。訪ねてきた孫である加奈子の身に起きた不幸が自分の息子によって行われた犯罪だと知った(ちから)は、加奈子を放っておくことはできなかったのだろう。だから家に迎え入れた……。 「そう考えると辻褄が合いませんか?」 野本の言葉に五十嵐も納得した様子を見せた。 「両方の父子と姉妹は疎遠だったんですよね……。それなら…ありえますね……」 老舗和菓子屋の跡継ぎという問題と、離婚率が高い今の時代が生み出した特殊な状況だったのだろう。 職人(しょくにん)気質(かたぎ)で昔のしきたりを守ってきた父は、若いうちに結婚を強いられ、子どもを授かった結果、姉妹とも思える年齢の娘と姪が誕生してしまったのだ。 しかしこの事態は、加奈子にとっては最良の事態だったのかもしれない。和菓子屋の娘は家出中で、その娘よりも学力があり、しっかり者の自分が現れたことで祖父に取り入ることができたのだ。 これが理由だとしたら、納得もできる…と、二人は思った――。
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