羨望と憎悪

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加奈子は頭を抱えて机の上に顔を伏せた。 自分が持つ狂気に気付かれていたことに動揺を隠せないようだ。それだけじゃない。自分の過去など全く知らない赤の他人である彩香に、誰よりも心の内を見透かされていたことに、能力(ちから)の差を見せつけられた気分だった。 地井が彩香に執着した理由が理解できた気がした。 「先生は…私なんかよりずっと前から、あの子の能力(ちから)の凄さに気付いていたのね……」 「どうですかね…もし、あなたの言う通り、彩香の能力(ちから)に気付いていたとしても、あれだけの事件を起こした人です…まともな思考を持っていたとは思えません。彩香ならあなたの件がなくても、地井勝から離れたはずです」 加奈子は、はぁ…と、息を吐き、目を閉じた。そしてお腹を撫でる。 「不思議よね…産まれた途端、簡単に殺した子どもでも…お腹の中にいたときは、無意識にお腹を守ってた……。勝手に流れてくれればいい…そう思いながらも、お腹をかばってた……。そんな自分が怖かった……」 加奈子は、野本から子どもへの愛情が全くなかったわけではないだろう…と、言われて、ポロポロと過去の想いを語り始めた。 「お腹を中から蹴られれば喜びと憎しみが絡みついた(いびつ)な感情を抱いたし、痛みが走ればお腹の中の子どもが苦しんでるんじゃないか…とか、このまま死んでくれるんじゃないか…とか…自分でも自分の心が分からなかった……」
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