羨望と憎悪

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産みたかったけど、産みたくなかった。そして…憎かったけど、愛おしかった……。 それが加奈子の本音なのだろう。 野本が持つ捜査資料を見つめながら、加奈子は自分で産み、自分で殺した二人の子どもの事を考えていた。 自分の死をも覚悟しながら産んだ子どもだ。初めての経験と激痛、不安、恐怖……。普通の出産だったなら、病院のベッドの上で看護師や医師たちが見守ってくれ、子どもの状態を確認してくれているから、息むことだけに集中できただろう。 しかし、加奈子は公園のトイレで一人、赤ちゃんを出産したため周囲に気付かれないよう、声を出さないように必死で、息むことよりも誰にも気づかれずに腹の中のモノを外の世界に押し出すことに必死だった。 どんなに子どもがかわいくても、無事に生まれたからと言って連れて帰ることも出来ない。殺すしかない命だった。しかし、その命を授けたのは他でもない…自分に『子どもを殺せ』と命じた男だった。 なぜ自分が殺人犯にならなくてはいけなかったのだろうか……。 考えれば考えるほど、気が狂いそうになる。 「あいつが刑務所にいなければ…殺してやったのに……。私は復讐方法を間違ったのかしら……」 加奈子はそう呟き、うつろな目でコンクリートの壁を見つめた。
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