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第1話(2)助っ人、テンシンリン
「あ、凛ちゃん~」
「先輩、来ましたよ」
「いや~助かったよ~」
「助っ人ってことですか?」
「そう! お願い出来る?」
先輩が両手を合わせる。凛は小さいため息交じりで答える。
「はあ……ここで断れないでしょう」
「ありがとう~♪」
「それで?」
「3対3で対決なんだけど、一人が病欠で、もう一人が急用入っちゃってさ……」
「え? もう一人は?」
「それは別の知り合い頼んであるから……あっ、こっちこっち!」
先輩が呼ぶと、その場に一人の女の子が入ってくる。オレンジ色のミディアムロングの髪と迷彩柄の服装が目を引く女の子である。髪はボサボサとしている為、ボリュームがあるように感じられ、その分身長が高く見えるが、実際はそこまで平均的な身長の凛と差はない――いわゆるスタイルは若干の差が感じられるが――。凛はその女の子を見つめる。美人だが、どこかワイルドさを感じさせる顔立ちだななどと考えていたら、その女の子から口を開く。
「……なに?」
「あ、い、いや、なんでもないです……!」
凛が頭を下げる。先輩が笑う。
「凛ちゃん、そんなに畏まらなくて良いよ。タメなんだから」
「え? ということは……」
凛が頭を上げて、女の子を見る。
「そう、この子も春からこの京都に来たばっかりだから」
「あ、そ、そうなんですか……」
「そうだ、お互いに自己紹介して」
「は、はい……天津凛です。滋賀から来ました。短大生です。よろしくお願いします」
「橙山輝です。和歌山から来ました。専門通ってます。よろしくお願いします」
凛と輝がお互いに頭を下げる。
「それじゃ紹介も済んだところだし、早速始めようか♪」
先輩に促され、凛と輝が三台並んだパソコンの前に座る。凛が尋ねる。
「先輩、一応聞きますけど、なんのゲームですか?」
「『ヴェルテックス レジェンズ』だよ」
「ああ……」
凛が苦笑する。
「ははっ、凛ちゃん、FPSとかTPS嫌いだものね~」
「嫌いっていうか、受け付けないというか……」
「受け付けない? どういうところが?」
輝がややムッとしながら、尋ねてくる。
「え……物陰に隠れて狙撃とかなんかコソコソしているな~って」
「その緊張感が良いんでしょうが」
「う~ん……」
「なに?」
「やっぱり、拳と拳で決着つける方がスッキリするっていうか……」
「は?」
「凛ちゃんは基本格ゲー専門だから」
先輩が補足する。
「ああ、格ゲー民……」
「ちょっと待って、今鼻で笑ったよね?」
「ああ、そういうのは後でやって、キャラ選んだよね? それぞれのニックネームとキャラを確認しようか。私は『ポンポコタ』、ヒーラータイプ選んだから、回復は任して」
「アタシは『テンシンリン』、アタッカータイプを選びました……」
「わたしは『キラリ』、スナイパータイプを選びました……」
「それじゃあ、テンシンリンちゃんが前衛で、キラリちゃんが後衛って感じでよろしく~♪」
凛が戸惑う。
「ざっくりとした指示ですね……」
「問題ない……一から言われないと分からないのか?」
「はい?」
凛が輝に視線を向ける。
「お、聞こえたか?」
「聞こえるように言ったでしょ?」
「はいはい、もう始まるから、仲良く行きましょう~♪」
ゲームが開始される。最大で90人のプレイヤーで行われるバトルロイヤルゲームで、時間経過とともに徐々に狭くなるフィールドを舞台に戦いが行われ、最後まで残っていたプレイヤーとチームが勝利というルールである。
「始まった……」
「宇宙ステーションマップだね~」
「ポンポコタさん、ガンガン行きますんで!」
「ああ、ちょっと待って!」
「うわっ⁉」
凛のキャラが滅多撃ちに遭い、あっという間にHPがゼロとなってしまう。
「ははっ……」
先輩が苦笑する横で、凛が啞然とする。
「そ、そんな……ちょっと突出しただけで?」
「このレベルならそれでも命取りだ……不用意過ぎるぞ、テンシンハン」
「テンシンリンよ!」
「ああ、私が回復するからね~ちょっと待ってて」
このゲームはヒーラーの能力か回復アイテムを使えば、制限時間内で何度でも復活することが出来る。凛のキャラも復活した。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして~」
「高校までとは皆エイム(照準を合わせること)の精度が段違い……」
「プロも混ざっているんだ、当然だろう」
凛の呟きに輝が反応する。
「プロ……」
「素人は大人しく引っ込んでいろ」
「はあ⁉」
「仲良くね~」
声を上げる凛を先輩がなだめる。
「人を素人呼ばわりして……アンタがどの程度のものだってのよ……」
「そこで指をくわえて見ていろ」
「はっ、お手並み拝見といこうじゃないの……」
「ちょ、ちょっと連携しないと~」
「問題ないです」
輝が先輩に答えると、キャラを迷いなく操作し、ステージ中央の高層ビルに上る。
「おおっ、速いね」
「このステージは各所に強力なアイテムなどが散らばっていて、それの回収に気を取られますが、必要最小限の武器さえ確保したら、このように高所に上ってしまえば良いのです」
「周囲が見渡せるね~」
先輩が輝のモニターを確認して頷く。
「高所から狙い撃ちにしてしまえば……!」
「!」
「‼」
「⁉」
「……このようにさして問題はありません」
「すごい……」
凛は素直に感心する。言うのは簡単だが、確かな狙撃技術が無ければ無理な戦術だからだ。
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