第1話(3)銃がダメなら接近戦をすればいいじゃない

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第1話(3)銃がダメなら接近戦をすればいいじゃない

「ふん、感心するくらいには分かるか……」  輝が凛を横目で見る。凛が頷く。 「う、うん……」 「まあ見ていろ、狙撃でほとんど終わらせる……むっ⁉」 「ど、どうしたの⁉」 「い、いや、建物が崩れ始めて……」 「ポンポコタさん!」  凛が先輩に説明を求める。 「これは……ファイターによるものだね」 「ファイターにここまでの攻撃力は無かったはずでは⁉」 「いや、テンシンリンちゃん、つい最近のアップデートで、パワーが一定時間内で五倍になるっていうアイテムが追加されたんだよ」 「ご、五倍⁉」  凛が驚く。 「まあ、出てくる率は極めて低い、超のつくレアアイテムなんだけどね。それにそれを使用しているときは防御力の値も極端に下がるし……」 「そ、それにしても……マップのオブジェクトを破壊出来るなんて……」 「ファイターは攻撃力だけでなく、防御力もそれなりだけど、スピードが鈍足気味だったから、救済措置の一つかな」 「くっ、このままでは地上に叩きつけられる……!」 「待ってて、キラリちゃん! と言いたいところだけど、高層ビル付近は混戦状態だね。回復する前にこちらがやられそう……」  先輩が顔をしかめる。 「ならば!」 「あれ? テンシンリンちゃん、回復アイテム拾ったの?」  先輩が凛のモニターを覗き込む。 「拾っていません!」 「ええ? どうするつもりなの?」 「あのファイターを沈黙させます!」 「馬鹿な、そんなことが出来るわけが……」  輝が思わず苦笑する。 「出来る!」 「今さっきポンポコタさんが言っただろう! ファイター以外にも他のプレイヤーが殺到しているんだぞ! また滅多撃ちにされるのがオチだ!」 「それがそうでもないよ!」  凛のキャラがするすると移動し、他のプレイヤーを倒していく。輝が驚く。 「なにっ⁉」 「これは……みんな高層ビルが崩れた際のアイテム大量放出に気を取られているね。その隙を上手くついている……」 「それにしても……銃が主武装のこのゲームで接近戦主体とは……」 「こういうのが、テンシンリンちゃんの得意とするところだよ♪」  先輩が輝に向かってウインクする。凛が声を上げる。 「ファイターまで迫った!」  ファイターが高層ビルの破壊を止め、凛のキャラに向き直る。凛のモニターを覗き込んでいた先輩が舌打ちする。 「ちっ、気付かれた! 不意打ち出来たのに!」 「問題ありません!」  凛はキャラに銃を投げ捨てさせる。それを自分のモニターで見ていた輝が再び驚く。 「! 銃を捨てた⁉ ヤケになったか⁉」 「身軽にしたんだよ! はあっ!」 「!」 「せいっ!」 「‼」 「とおっ!」 「⁉」  凛のキャラの素早い攻撃を立て続けに食らい、ファイターは崩れるように倒れる。 「やった!」 「なっ……」 「テンシンリンちゃんのキャラは銃を使えない場合のアクション――キックやパンチなど――も充実しているからね~」 「キックやパンチが使えるならこんなもんですよ!」  凛が力こぶを作ってみせる。 「だ、だからと言って、あまりにも常識外れ過ぎる……」  輝が信じられないといった様子で呟く。 「ピロリさん! 高層ビルは守ったよ!」 「キ、キラリだ! ふん!」  体勢を立て直した輝の正確な射撃と、凛の素早い攻撃で、他のプレイヤーチームたちは次々と倒されていき、最終的には凛たちの勝利となった。 「やったあ~! ありがとう、二人とも♪」  先輩が無邪気に凛たちにそれぞれハグする。輝が席を立ち、凛の元に近づく。 「……」 「な、なによ……」 「……格ゲーを馬鹿にした態度を取って済まなかった」 「え?」 「お前のアクションが無ければ、あっさりと負けていただろう……」 「い、いや、それならこっちも……ごめん、FPSやTPSを馬鹿にして……」  凛が頭を下げる。輝が笑う。 「ふっ、コソコソ隠れているのはある意味当たっているからな……」 「それでも凄かったよ、あの正確な射撃は! 文字通り局面を一人で変えていた!」 「射撃がわたしの生きる道だからな……」 「今日は勉強になったよ」  凛が右手を差し出す。 「……こちらこそ」  輝も右手を差し出し、二人はガシッと握手をかわす。 「輝っちはさ~」 「か、輝っち⁉」  凛の言葉に輝は面食らう。 「どっかのチームに所属しているの?」 「いや、わたしの住んでいたところよりもチームの数はずっと多いからな……もう少し吟味してから決めようと思っている……」 「そうなんだ……」  凛が顔を伏せる。 「格ゲーのチームは少ないだろう」 「よ、よく分かったね?」  凛が顔を上げる。輝が自らの側頭部を指でトントンと叩く。 「それくらいは事前に調べている……」 「そ、そうだよね、普通はちゃんと調べてから来るよね……」  凛が再び顔を伏せる。 「格ゲーならば個人で活動しても良いだろう」 「いや、チームというものに憧れていまして……」 「それなら自分でチームを立ち上げたらどうだ?」 「あっ、そうか! その手があった!」  凛が再び顔を上げ、うんうんと頷く。 「きゃあ! か、怪人よ!」 「む!」 「ええっ⁉」  先輩が指差した先にはカマキリの怪人と緑色のタイツに身を包んだ戦闘員たちがいた。それを見て凛が驚く。
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