25人が本棚に入れています
本棚に追加
第2話(3)チーズ牛丼でフラグ立ててそう
「ここだってさ……」
凛と輝は牛丼チェーン店の前に立っている。
「女子大内にもこういう店があるとは知らなかったな……」
「お嬢様たちは街中の店には入り辛いってのがあるんじゃない?」
「それにしてもだな……まあいい、ここにいるのか?」
「えっと、『もしかしたらいるかもしれまへんな~』だって」
「なんだそれは……」
輝が目を細める。
「こういうのを見ると、ザ・京都って感じがするよね~」
「何に京都を感じているんだ、お前は……」
「とりあえず入ろうか」
「あ、ま、待て……仕方ないな……」
2人は店に入る。店員が挨拶してくる。
「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
「2名です」
「お好きな席にどうぞ~」
店員が案内する。
「ボックス席に座ろうか」
「カウンター席で良いだろう……」
「いや、ここはボックス席が正解な気がするんだよね~」
凛が顎に手を当てる。
「なんだ、正解って……」
「ボックス席でも良いよね?」
「何でもいい……」
2人が向かい合って座る。店員が水を持ってくる。
「お冷になります。ご注文お決まりになりましたら、お声がけ下さい」
「あ、牛丼大盛を……」
「ちょっと待って、輝っち!」
「え?」
凛が注文しようとした輝を制する。
「えっと……」
「すみません、決まったらお呼びします」
「は、はあ、失礼します……」
店員がその場を離れる。輝が怪訝な目で凛を見つめる。
「……どういうつもりだ?」
「甘いよ」
「牛丼はどこもわりと甘口だろう」
「牛丼の話はしていないよ」
「何の話だ?」
輝が首を捻る。
「心構えの話をしているんだよ」
「心構えだと?」
「うん……」
凛が真面目な顔つきで頷く。
「……さっぱり分からんのだが」
凛がテーブルに肘をつき、両手を顔の前で組んで呟く。
「……もう駆け引きは始まっているのだよ」
「なんのだ」
「その……エレクトロニックフォースのメンバーかもしれない人とのさ」
「駆け引きをする意味が分からん」
「信用出来るかどうかを見極めたいんでしょ」
「ふむ……」
「警戒心がかなり強い人みたいだね……」
「それならそもそも安易にDMに返信するべきではないと思うが……」
「輝っちから見てどう?」
「何を見てだ?」
凛が人差し指を立てて、左右に振る。
「チッチッチッ……アタシが何も考えないでこのボックス席に座ったと思う?」
「思う」
「そ、即答⁉ そ、そうじゃなくてさ、この席からなら店内を見渡せるわけだよ。どう、『和歌山みかん大好きスナイパー』の目から見て怪しそうな人はいる?」
「変な二つ名を付けるな」
「みかん好きでしょ?」
「みかんは好きだが……問題がある」
「え? なに?」
「……店内を見渡せる奥の席は、今お前がどっかりと座ってしまっている。わたしは手前の席だからな、出入口すら見えんぞ」
「!」
凛がハッとした表情になる。輝が戸惑う。
「いや、そんなリアクションをされてもだな……」
「しまった……」
「いや、席を変われば良いだろう」
「待った! ここで席替えをするのはあまりにも不自然だよ!」
「考えすぎだろう」
「他の手を考えなければ……」
「聞いていないな」
輝が呆れる。しばらく間をおいてから凛が口を開く。
「……やっぱりさ」
「うん?」
「注文が関係あると思うんだよね」
「何を言っているんだ?」
「わざわざ牛丼屋さんを指定してきた意味もそこにあるはず……」
「はあ……」
「きっと、注文次第でフラグが立つんだよ!」
「本当に何を言っているんだ、お前は……」
輝が困惑の目を向ける。凛がメニューとにらめっこする。
「この注文は大事だよ……」
「お店に迷惑だからな、さっさと食べて帰るぞ」
「う~ん……」
凛が腕を組む。輝が手を上げて店員を呼ぶ。
「……すみません」
「は~い、只今! ……ご注文は?」
席に来た店員が尋ねる。
「牛丼大盛一つ」
「かしこまりました」
「……う~ん」
「おい、早くしろ」
「……すみません、三色チーズ牛丼の特盛に温玉付きをお願いします」
「え⁉」
「かしこまりました。少々お待ちください!」
店員が奥に向かう。しばらくして、注文した料理が届く。
「ゲーム、牛丼屋……これでいいはず……」
「何がどう良いんだ」
「これで信頼を得られたはずだよ」
「はっ、そんなわけあるか……」
「……エレクトロニックフォースの方々どすか?」
「ほ、本当に来た⁉」
隣のボックス席から声が聞こえ、輝が驚く。
最初のコメントを投稿しよう!