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第一章 客が滅多に来ない古書店
――薄暗く黴臭い、古びた古書店の奥。そこに僕は棲息している。
「……暇だ」
大きく欠伸をし、読んでいた本を置いて番台に突っ伏す。四方を天井まである書棚に囲まれ、窓もない店内は昼間でも暗い。唯一開いている入り口からは、別世界のように白く光が差し込んでいた。
「暇だ……」
机に顎をのせたまま、オイルランプの揺らめきでも数える。こんな紙ばかりの場所にランプなんてとお客には顔を顰められるが、かまわなかった。いっそ、燃えるなら燃えてしまえばいい。それこそ僕の本望だ。
「あーあ」
ランプの揺らめきを数えるのもすぐに飽きた。お客でも来ればいいが、この店には滅多に客は来ない。なので僕は一日、番台に座って売り物である本を読んでいる。
「髪でも伸びれば、少しは面白いものを……」
自分の、少し長めの黒髪を引っ張りながら、可笑しくなってくる。最後に髪を切ったのは、もう何年前か。五年か、十年か……それとも、もっと前か。それほどまでに長い時間、僕はここに座って過ごしていた。着物から伸びる手足は、驚くほどに白い。最後に日の光に当たったのがいつなのか、もう思い出せないくらいだ。
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