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「あーあ、暇だ、暇だ。本当に暇だ……」
ぶつぶつと言いながら眼鏡を外して目を閉じる。
「なんか面白いことでもないか……」
とはいえ、ここに客が来るのは本当に稀。僕がこの店を祖父から引き継いでから売れた本は片手で足りる。それほどまでにここには客が来ないのだ。――否。来られないのだ。
「寝るのも、もう飽きた」
そう言いながらもうとうととする。それしかやることがないのだから仕方ない。僕は退屈を飼い殺し、こうやって無為に生きていくしかないのだ。
「すみません」
「はい!」
唐突に声をかけられて、飛び起きた。入り口からスーツ姿の男が入ってくるのが見える。頭頂部がかなり淋しくなっている男はハンカチでせわしく汗を拭いながら、店内をきょろきょろと見渡しつつ奥の番台にいる僕のところまで来た。
「……その。〝あれ〟を買い取ってもらえると聞いたんですが……」
上目遣いでそろりと、男が僕を窺う。
……きた。
無意識に口元が、綻んだ。
「〝あれ〟とは何のことでしょう?」
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