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それでも、知っていながらとぼけてみせる。先ほどまであれほど暇で死にそうだったのだ、少しくらい遊んだって罰は当たるまい。もっとも、僕はよほどのことがなければ死なないが。
「とぼけないでくださいよ! こっちは死活問題だっていうのに!」
顔を真っ赤にし、男が食ってかかってくる。
「すみませんねぇ、随分ひさしぶりのお客なもんで、つい」
視線で番台の前に置いてある、簡素な丸椅子を指す。男は意味がわかったのか、おずおずとそこに腰を下ろした。
「それで。お話を伺いましょうか」
そのために来たというのに、男は鞄を抱いて上を見たり下を見たりしながら逡巡し始めた。
「あの、やっぱり。でも」
意味をなさぬ言葉を発しながら、男は悩み続ける。じれったくて早く話せと言いたくなるが、一応貴重なお客様なので我慢した。
「その。……やっぱり、やめます!」
腹が決まったのか、勢いよく男が立ち上がる。まあ、彼の身なりからそんなことだろうとは予想していた。
「そうですか、わかりました」
相手がやめるというのだ、僕も姿勢を崩して立て膝にし、手近にあった本を捲った。
「えっ、あっ」
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