第五章 暗闇に咲く花

18/21
前へ
/83ページ
次へ
「何年か前、その店に大量の本を売った代わりに魂を取られた人間がいる、って」 「当たらずとも遠からず、だ」  そうか、あれはそんなふうに噂になっているのか。しかし、あれからもう数年も経っているなんて驚きだ。 「とにかくそれで、連れてこい。あとは僕に任せておけばいい」 「……本当に、いいんですか」  不安そうに彼女が、上目で僕を窺う。 「いいんだ、気にするな」  安心させるようにそっとその小さな頭を撫でた。  帳場に座り、彼女が奴らを連れてくるのを待つ。 「本当なんだろうな」 「本当です、本当です」  そのうち、数人の女生徒に囲まれて彼女がやってきた。小突かれ、おどおどとしている彼女を見て、胸が張り裂けそうなほど痛んだ。 「見ててください」  彼女ひとりが帳場まで進んできて、机の上に本をのせる。打ち合わせどおり、家から持ってきたなんの価値もなさそうな少し古い漫画の本だ。 「……買い取りを、お願いできますか」  彼女の声は緊張からか、震えていた。 「はい。では、これで」  にっこりと笑い、いつもどおり一万円札を机の上に置いた。 「うわっ、本当にこんなゴミが一万になるんだ!」
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加