9「風雪謬説ブロッサム」

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9「風雪謬説ブロッサム」

 意外なものを見る、そんな視線に向こうの方が不審を示した。 「……どうしたの? 何かおかしいところでもある?」  自身の見た目を確かめている姿を見るに、詩音の知っている葉森璃月と同じだと認識できた。だというのに、目の前にいる相手に言いようのない違和感がまとわっている。  何も言えないまま、璃月が近づいて手を引かれるままになる。  光球のある場所から十数メーター引き離されて、それから身体の各所を検められた。 「あれに近付いたら駄目だって知ってるはずなのに、何をしてたのさ」 「え、そんなん知らないけど?」  咎めるような口調に対して、しかし詩音には聞き覚えのない文言。  あれが危険なことはなんとなくわかるけれど、近づくのも駄目とは―――いや、幼少期からそう言われていたんだっけ? よくわからない。  記憶の齟齬に唸っている詩音の様子を見て、璃月も何かを察したような表情を見せる。  とりあえず、どこかで落ち着こうと再び手を引いて歩いていく。  央の森のすぐ近くには人通りがなく、あまり気にならなかったが。しかし中心街では妙に人目を引いているように感じた。 「……なんか目立ってるな」 「そりゃあまあ、そうだよ。わたしたちは普段からこういうものだし」 「え、」  当たり前に人の眼に映っている、その事実にもなんだか違うなと感じる。  どうしてこうも周囲と自身の認識に差があるのか、理由は思い当たってもそんなことになるのか、と意外性の方が勝っていた。 「まあ、普通の人からは近づいてこないし、気にしなくていいんじゃない」 「俺が普通じゃないって言ってるよなそれ」 「嫌がってないくせに」 「…………。嫌じゃなくても、気にはするよ」  外れていること、それ自体は受け容れられても。結局多数に存在する真ん中、中庸を選びにくいというのは確実にある。  逃避みたいに別の世界や現実に走るのも、そういうものなのかもしれない。  見えているのか、それとも都合よく捻じ曲げているのか。  それぞれに現実があって、それぞれに真実があって。  全てを共有することはできない。  だからこそ。自分の知らないルートを辿った、自分の知っているものと違う現代にも、安易に嘘だとは断じられない。  この世界にはこの世界の現実がある。 「どこかで間違って、今があるって感覚はわたしにもあるよ」  詩音の内心を見透かしたような台詞が飛んできた。ぎょっとして意識を向けても、璃月は前を向いていて表情が読めない。 「カフェインは苦手だったっけ? 炭酸水にしとく?」 「ああうん」  当たり前のようにファミレスに入って、手慣れた様子で注文を済ませてしまう。なんだか妙な感覚だった。  窓からは離れた席だから、人目を遮っている。  それでも、同時に店内にいる客の注意が絶え間なく向いているのが、肌に痺れる感覚で伝っていた。 「ここにはさっきの噴石は落ちてこないからね。詩音くんもなんとなく分かってるとは思うけど」 「絶対にないとは言えないだろ?」  言い返すも、なんだか頭がうまく回っていない。地面で強く光っている噴石を見たからだろうか、違う世界の情報でも混じっているようで視界がちらついている。  それを璃月の方も察しているようで、不用意に触れない方が良いよと宥める口調だった。 「それとは別に、君には何か違うものが見えてるみたいだけど……何かあった?」 「…………、…………」  この世界が自分の知っている、自分の生きてきた世界と違う。  こんなことを言ったら、信じてくれるのだろうか。  似たような台詞を何かの作品で見ることはあったけれど、自分が言う側になるとは思いもしなかった。  実際に切り出そうとすると、すごく不安だ。  同じ人物に見えて、相手が完全な別物だと突きつけられそうな感覚。 (そして、その原因がおそらく自分にあること)  自分の責任を強く詰られること、それはいつだって厭なものだし、怖くて仕方がない。  璃月は何も言わず、ただ詩音の台詞を待っている。 「並行世界にいるみたいでね、困ってるところ」  一言で済ませようとしたら、妙におどけた言いようになった。深刻に思っていることをあまり重く言わない、そんな癖はなかったはずだけど。  強がりとも違う、目を逸らすだけのシニシズム。 「……だから、ずっと居心地悪そうにしてるんだね?」  璃月はその態度を指摘せず、反して真っ向から詩音の様子を分析していた。 (申し訳ないがそれは少し違うんです。貴女と向き合う状況に慣れていないだけなんです) 「大体そんな感じ。感覚っていうか、空気がズレてて合わないんだ」  全力で嘘を吐いた。誤魔化すのにも力がいるなんて初めてのことだ。  しばらく考え込んでいる璃月の様子を眺めながら、詩音も自身の違和感がどこから来ているのかを分析しようとした。  ただ、世界の書き変わりの所為か、もともとの自分の感覚を思い出せない。  周囲の世界がどうズレているのかを具体的に説明できそうになかった。  手持ち無沙汰になり、意味もなくテーブルに置かれているメニューを手に取って眺める。対面でものを頼むことが苦手で、もっと簡単に済ませられないかと常に思っていた。  あれ、タッチパネルで頼む形式って、結構普及してる印象なんだけどな?  首を捻り、この店舗でも採用されているはずだったのに、なんて存在しない記憶でも掘り出してしまいそうだった。 「それが自然だと思うんだけどな」 「ん? なんのこと?」  聞かれていた。璃月にしても何か思う所でもあるのか、詩音の様子を常に意識の中に置いている様子だ。  噴石、と言っていた。  日常的に降ってくるものになっていて、人にはそれを対処できないとはっきり言いきられている。 「なんか、ゲームの画面でも見てるみたいだよ」 「そんなゲームとかあったかな、って言ってもわたしはよく知らないからなあ」  見せた方が早いか、と癖でポケットに手がいった。けれど、あるはずの物には触れられず、その驚きはとりあえず隠した「どうしたの、固まって」はずだったけれどしっかり見抜かれている。  鞄の中に仕舞ったままだったか、と不注意が恨めしい。  思い浮かんだ端末のイメージすらなんだか世代が違うような気もしたが。二つ折りでボタンが下半分を占めている、なんて。 「……訊きたいんだけど、今の暦って何年?」 「――――年だけど」  璃月の返答には違和感はない。詩音の記憶と違いはなく、時間軸自体は変わっていないようだった。  色々なものが歪んでいる、その実感を強めるばかりだが。  きっと降り注ぐ噴石が影響しているのだろう、直観だがそう思う。 「結局は俺の所為ってことなんかなあ」 「全部抱えることもないはずだよ」 「全部じゃないけど、原因に心当たりはあるからね」  そっか、とそれ以上は言われなかった。単に目の前に出てきた食事に気を取られただけのようだった。  詩音は家で夕食を取っていたので、ここでは少ない量に留めていた。  何の理由もなく、人に……神に? 金を出させること自体に気が引けるのもあるのだけど。 「気にしなくてもいいのに。遠慮じゃなくて距離を置いてるよね」 「んー。誰に対してもこんなものだから」 「変わらないねえ」  呆れている様子に、毎度のことながら心が痛かった。  親しいと言える人にさえ恐怖を抱く、自分の精神構造が疎ましくて恨めしい。 「とりあえず、元の状態には戻したいな」 「そう? じゃあその方法を考えようか」  ……ハーフポンドのハンバーグをぱくつきながら返された。思っていたより食欲旺盛なんだな、と知っているはずなのに驚いていた。  街の空の方を見れば、いくつかの柱が立っているように見える。ゲームのイベントでも起こっていそうな光景だが、実際には周辺に人を寄せ付けない領域になっている。 「さっきも感じたでしょ? 近づいたら全身がばきばきに折り畳まれるよ」 「圧縮ですらないんだ……」  空間というか、周囲だけ物理法則が変質していると言えばいいのか。とにかく人でも神でも不用意には近づけないような危険なものだった。  璃月を含んだ周辺の土地神たちは、その噴石を可能な限り迅速に取り去ることが仕事になっている。ヒト側は対処不能で、神の側も仕方なくやっていることにはなるけれど。 「どうしても警戒されるんだよね。とくに他の土地での身勝手とかも知ってるから」 「助けてもらっておいてそういう扱いになるのか……」  璃月の周囲から人が遠ざかる光景を見ていて、恩知らずだなと言いそうになった。璃月自身が何も思っていないのなら、詩音の独り相撲になりそうだったが。 「そこで怒るんだね?」 「なんで面白そうにしてんのかわからんけど、怒るものだよ」 「そっかそっか。慣れたものだから、あんまり実感がなくてね」  麻痺してるな、と他人事だからわかる。自分がそういう慣れを持っているなら、同じように思うのかもしれない。  市街地の外れの方に三つ、中の方には二つ、そのうちの一つが美術館の真ん前に落ちていた。元々あった屋外の展示に混じって、空に向かって光を放つ様があまりに馴染んでしまっている。 「まあ、周りの展示物が分解されてるんだけど」 「よく見りゃ原子レベルで霧散してるな。なんつーか、ブラックホールみたいだ」 「ブラックホールなら、この規模でも地球なんか簡単に呑まれるけどね」  つまり別物だとすぐに判る。  じゃあ、何が見える? いきなり問われて、何のことか考えて反応できなかった。  しばらく噴石の光を睨みつけて、その中に異質な情報が大量に含まれているのに気がついた。 「口じゃあ言い表せない。バグみたいなデータとか化けた文字列とかで、何なのかも判んねえや」  ただ、そればかりでもないような。 「……空間のひび割れもあって、その先はよく見えないけど……何かがあるような気もするかな」 「そうなんだね」  何かを納得したように、璃月は頷いた。  そのまま「見てて」と言いつつ両手を光の方に伸ばし、指揮者のような動きで振るいながら一歩ずつ噴石に歩み寄っていく。  彼女の指先から噴石に向かって、切り裂くくらいに鋭い軌跡が伸びていき。  それらが光の真ん中に突き刺さり、その度に光の強さが削がれていく。  何度目かで、噴石自体が「ばんっ、」と強く輝いて消え去る。反射的に目を瞑って、二秒の後に視界を戻せば、普段と同じ展示物の広場があるばかりだった。 「ふいー。いつも手順が違うから、面倒くさいんだよね」  疲れたように、額に滲む汗を手で払い。  その後に吹いた風にぶるりと身体を震わせた。 「……あれ、毎週一回以上は降ってくるんだよな。こんなことやってるの、負荷になるんじゃないか?」 「当然だよ。街だけでも居付いてる神はいつも動いてるし」  たまに人が巻き込まれてるし。  それに関しては詩音も知っている。降ってくる噴石の直撃を受けて消滅した人物の数は人の側の記録に残っている。 「それをなかったことにはできないのが辛いよ」 「そこまでの権限はないんだな……」 「所詮は末端ですしー」  自虐を始めた。コミカルに流しているけれど、力が及ばない事実にはあまり笑えない。  なんだか嫌な世界だな、と他人事のように思って。  そういえば知り合いも居なくなっていたっけ、と思い出して。  璃月につられるように気が滅入った。 「違う可能性を辿った未来、ってなるなら。えーと……その分岐から元の歴史をやり直すことになるのかな」 「……四百年以上前に干渉したんだよね? もう一度それをできる確証はある?」 「無いよ。自発的なもんでもねえし」  原因を書き換えるのは不可能な様子。そもそもあれはどういう理由だったのかもよくわからない。  ……、唸っていると璃月の視線が動かないまま詩音に固定されているのに気付く。  気付いて、こちらが疑問に思っていてすら、動じない様子が。 「どうしたの?」 「ん? しらない」 「急に子供みたくなるね……、割と似合ってるけど」  そんな返答に向こうの表情が唖然の形をとる。不機嫌にも似た雰囲気が、どこかで見覚えがあるように思わせる。  少し気まずくなって目を逸らす。 「顔合わせるのが苦手なの、何年も変わらないねえ」 「いい加減飽き飽きしてますよ」 「自分嫌いもいいけど、もっと人を好いた方が良いよ」 「どっちのルートでも変わんねえなら、もうそういう人間なんだよ」  諦め気味だ。どこで人を信用しなくなったのかは、覚えていない。  十年前にいろいろなものが窮まった結果、璃月と行き遭ったわけだが。結局そこから何も成長していないと突きつけられてしまう。 「初めて会った時よりはずっと良くなってるけどね。あの時の眼の濁りようはわたしでもちょっと引いたし」 「そんなにヤバかったか……?」 「あれって何があったのか、聞いてないけど。実際どんな状況だったの?」  ……憶えていない。  何か、ひどく怖いことがあったような気がしていて。  その内容は完全に封じられているようで、かけらも思い出せない。 「っていうか、こっちでも似たようなことになってんのかよ」 「書き変わる前もそんな感じ?」  人の本質が変わらない、なんて言いようで終わるけれど。それでも事実を見れば、なんだか情けなくなるようなものでしかない。  それを言えば、どっちにしたって葉森璃月も変わりようのない存在だと言ってしまえるのだけど。 「思ってるほど、差のない世界なのかもしれないね」  致命的に後戻り不能でないなら、それで良かった。 「大体ね、いくら火山の神だからって解決策が強引すぎるんだよ」 「そうそう、こっちで文字通りのとばっちりを喰う身のことを考えちゃいねえ」 「…………呑んでねえのに酔ってんですか」  土地神二人が不満を撒いている様子はなかなか異様で、以前にもあったような気がする。  稲多気肉咬の用意したスペースで、何も考えないで騒いでいた。  相も変わらず大量の食事を傍に置いているのには圧倒されるのだけど、しかし以前よりも控えめに見えるのは夜中だからという訳でもなさそうだった。 「カニ脚」 「また面倒なものを。……って爪で割ってるねこれ」  便利なものをお持ちで。漫画とかでしか見ない動作を見た、とすると自分でも真似をしたくなるのも詩音の性質だ。  指を立てて、場所を探る。  直感で見立てた場所に袈裟斬りのように振り下ろした。 「ヒトの手でそれをやってるのは初めて見たな」 「たぶん、俺だけですね」  想像で現実を捻じ曲げる技術、それが実際にそういうものなのか、は措いておいて。  明らかに人のできることからは逸脱している。  都合が良くて、わがままで独善的、全てを思い通りにしたいと思える傲慢さ。  そのくせ自分の至らなさと、現実のままならない様子を見てすら、未だに信じ込める愚かさ。 「命を軽視してないから、人間を辞めてないようなもんですし」 「別にそれは条件じゃないと思うけどね」 「そういう奴らはこの手の……魔術? 異能? みたいなもんを持てなかっただけだよ」  揃えばそうなるってだけ、とこじつけのように言ってみた。  そこに対して、璃月がなんだか不満そうだったが。 「外しきってはいないが、しかしまあ神種にもある程度は当てはまるからなあ」 「完全に度外視したのが、鍛治くんってことかな」 「まーね。でなきゃ危険物質撒き散らす真似はしねえ」  実際に何があったのか、と訊いても二人には答えられないようだった。  もとよりこの二人が街に居つく前の話らしく、気付いたころにはこの現状だったと口を揃えて言っている。 「おれはこの街じゃあわりと新参者だかんねえ」 「稲荷神なのに?」 「街が開発されてる間にここに来たんだから、そんなもんだよ」  二百年も経っていない、となれば確かにそうなるのだけど。考える様子の詩音を見て、肉咬が喉を弾くように「けっけ、」と笑った。 「そりゃ神にも序列ってのはあるけどな。場面で見りゃあ結構相対的だぞ?」  あくまで余所者であり、中心にいる神の補助的存在に近い。  そういう点で言えば、火山神の存在がもっとも古いことになる。  人の文化、文明に付随する神よりも、地形に由来する存在の方が大きくなるのは当たり前だ。 「潤鐘鍛治って、この周辺で一番強い?」 「何をいまさら。あれが噴火したら、この辺一帯なんて軽く灼かれるに決まってる」  そんでそれを制御しきれているわけでもない、なんて言われてしまうと、じゃあ何のためにとは思う。 「地球を抑え込めるわけがないからなー。神でも人智側だと干渉しにくいしよ」 「でもまあ、人間側には無限の可能性があるからね」  急にスケールの大きな話になっていた。  理解できないわけではないけれど、詩音が首を突っ込めるようなレベルではない、とほとんど聞き流していた。 「人は神を殺せるからね」 「――――――――、」  あからさまに反応してしまったのを見て、璃月が面白そうにしている。詩音の反応する部分を見抜かれているのは知っているけど。 「そうだねえ、簡単に言うことじゃないものね」 「からかうなよ、ってか撫でまわすな」  くすぐったい。だが暴れて振りほどけるようなものでもなかった。 「まあまあ、蟹でも喰って落ち着けよ」 「むごー!」  璃月と肉咬の挙動が、普段と違うように思える。言葉にしづらい違和感でしかないけれど、なんとなくそう思った。  ばぐん、ばぐん。  ずっと遠くから響く低音が、横隔膜の辺りを震わせた。 「おっと、また来るのか。今月に入ってから妙に騒がしいな」  肉咬の視線が空に向く。詩音も同じ方向を見ると、西の空に彗星に似た光が尾を引いて動いているのが見えた。  流星のような瞬間的な輝きでなく。  彗星のような距離を感じるような流れでもなく。  地に向かって空を削る、虫食いのような痕を残す火球。  怖い、と感じた。  その様子がミサイルのように見えたからだろう。 「こんな世界は、やっぱり――――」  そこそこ遠くに墜ちたようで、人の多い市街地までは届いた様子がない。しばらく待っていても、光の柱は目で捉えることができなかった。  無音がしばらく続いた。  そのうち、璃月の手の力が緩んで。  いきなり放された詩音が転ける前に地面に手をついた。 「あ、ごめん」 「いいよ。結構力んでたんだな」 「毎回のことだからね。――――正直、いつも恐々としてるよ。いつ、わたしたちが直撃を受けるかもわからないし」  そうなったら、この街はあっという間に壊れていくから。  土地神も基本的にはいきもので、噴石によるクラックの影響を免れるわけではない。  もし、彼らが噴石に当たっていなくなってしまったら。  そんな光景、考えたくもない。 「……やめさせる手段とか、あるかな」 「さあ。周辺はほとんど似たような状況だけど、その管理者全員で迫るのは」 「なんだ、忘れてんのか? そんなものはとうにやっていただろ」  百年も経ってねえんだ、と肉咬は忌々しそうに吐き捨てた。  見た目は柔らかく見えても、あれはかなり頑固だよなあ。  自身の中にある潤鐘鍛治の記憶と、周囲の璃月たちの評価が同じだった。 「じゃあ、俺が何かするよりも前からあんな感じってことか」  地母神だなあ、と嘆息したが。そもそも日本にそんな神とかいたっけ? なんて疑問が後から浮かんでくる。  どうでもよかったけれども。 「真正面から向かってもあまり意味はないしな……少なくともあの光球を処理できるくらいでないと」 「……できるの? 詩音くんのわかるように言うと、プログラミングの知識が要るんだけど」 「触れたことないなあ、さすがに」  家のPCにまともに触れたこともない。  学校の授業はあるにはあるが、そこまで深くは学んでもいない。 「一からやるしかないのか……」 「ま、急がば回れというし」  明日にでも本を用意して始めよう、あっさりと話が決まって解散になった。 「じゃあ、また明日ね。死なないように」 「死んでも生きるから大丈夫」 「矛盾……」  面白そうに笑ったのを見て、なんとなく安心できた。
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