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市街地を横切る川の真ん中に、大きな噴石がせり上がっている。
橋の上から手が届きそうなくらいに大きいので、しばらく誰も通れなさそうだった。
「それを知らせるためってのは分かるんだけどね」
「そしてぼくらの匂いを探って集めたのはよくできてるとは思うが」
「あなた稲荷神なのに、なんで狸を使役してんです?」
そう訊かれた肉咬が、なんでだろうな? なんて肩をすくめるのに、少しばかり苛ついてしまった。
街中に狸が集まっていたら、結構な騒ぎになりそうなものだけど。しかし詩音はそんな話を一度も聞いたとこはなかった。脱走犬とかカモシカとか、そういうのはときおり聞くけれど。
「しばらくこの辺りも通れなくなるし、さっさと処理しようかと思ったんだがね」
「……明らかに違う様子を見せている、と」
「そう。なんでかなーって探ってたら、お前たちが暴れてんのを知ったから、呼んだ」
石の周りにいくつもの白い亀裂。網のような拡がり方のグリッドがあるようで、明らかに違う世界との境界と言った風情だった。
さっき、鍛治の背中に走った違和感の正体だろう。
彼の本来持っている人格に寄ったことで、ほころびが出てきている。
「ちょうどいいじゃないか。あれを使えば元の世界を引っ張り出せるだろ?」
「あれも物理的に弄ろうとしてるのか」
その方がわかりやすいんだよ。そうは言うけれど、自分でも単純化しすぎじゃないのかと思わなくもない。
もう今更だし、最初から自力で全てできているわけでもない。
肉咬に何の話をしてるのかは掴めていないようだったけれど、対処できるということだけは伝わっていた。
それにしても、噴石の周りがかなり広く歪んでしまっていて、近づくのにも骨が折れそうだ。不用意に進めば骨どころか全身が折り畳まれることは知っているけど。
「中心部から引っ張り上げられればいいんだけど、例えば遠隔でこう―――」
詩音が右手を突き出して、噴石の中身を掴み上げるような動きを取ってみる。
マジックハンドのように動作のベクトルだけ、座標をズラして動かせないかと試みるが。
「手応えがないな」
「空間のよじれに弾かれてるね」
歪みすぎていて、正確に座標を指定できない。
しかも絶えず位置が変化しているような感覚もある。
冷えているのか、雪がちらついている。
噴石の近くの雪が明らかに変な動きを見せているのがわかる。あちこちが渦を巻いているし、上方向に行ったり外へはじき出されていったり。
何かのレンズを通しているように見えるのだけど。
「……。詩音くん、手を出して」
「ん? はい」
璃月に言われるままに右手を出して、その手を下から取られる。しばらくして、掌にソフトボールくらいの種子が出てきていた。
どうやってこんなものをと訊けば、空想の実像化に乗っかっただけだという。
他者からの干渉を受けやすいのか、それとも神種だからなのか。
彼女が指定する動作をなぞり、噴石に向かってその種子を投げる。投擲は苦手だけれど、イメージ補正で何とか目標に届かせる。
「っていうか、想像できないものは再現できないのか。なかなか不便だね」
「使う人間の知識量に依るんだなあ」
言っている間に、噴石の近くに落ちた種子が猛烈に成長を始める。十数メーター離れていても、樹が膨れ上がる音が大きすぎて耳を塞いでしまった。
「ヒトもこういう音を立てるって聞いたことあるよ」
「成長痛の時の? 俺は経験してないけど、こんなにバキバキいうもんなの?」
怖いな、とやっぱり他人事だった。
「成長してないから?」
「…………‼」
ひどい罵倒を聞いた気がする。それでも反論はできなかった。
今まで感じたことのない心臓の痛みが苦しい。
「いいんじゃない? やろうと思えば一生成長できるからね、人生は学びだよ」
「それはそうだけどさ」
今、言うこと?
奥歯を噛んでいるうち、急速に成長した樹が五階建てくらいの高さに成長していた。
「行こうか、あの中でなら捻じれないはずだから」
「そうなのか?」
「わたしだって一端の神様ですし? 固有の領域を作ることくらいできますよ」
甘く見ないでほしいね、とは言うけれど。
それくらいは知っていたし、今更疑ってもいない。
「璃月ちゃん、見た目が甘いのよ。あまあまだよ」
「どういう意味⁉」
鍛治の言いようにどうして予想外のような反応を示しているのか、その方がよくわからなかった。
樹木の中に入り込む、最初に璃月に会ったときもそんなことをした記憶がある。
何かから隠れるように、一度閉じ籠ることで落ち着いたのだったか。
「浦島太郎みたいなことになるって、あとで知ったんだけど。実際はそんなことなかったな」
「時間軸はわたしの方で調整できるからね。基本的に時間経過は外と同じだよ」
ここは別に宇宙外じゃないもの、と何のこともなさそうだった。
広い空間、板張りの通路が延々と続いているけれど、その中には点々とエメラルドグリーンの灯りが灯っているばかりだ。
「どれくらいで着くんだろ」
「十分も歩けば行けるかもね。空間を捻じ曲げてるから、処理のための距離だもの」
璃月がふっと上方向に視線を振った。
しばらくして「雪が荒れてる」と呟いた。
「そろそろ積もる時期だからかな」
「深白が苛ついてるからかも。あの子はなんであんなに不安定なんだろ」
「それを他人事みたいに言っているのが俺には疑問なんだけど……?」
もともと同一の存在じゃないの?
「逆方向だからね。湧き水の神であり雪の精霊ってなると、終わらせる存在の方になるもの。樹木の神は伸びていく方だから」
反対側のことなど、よく見えないからよく知らない。
知らなくていいことなのだ―――まともに受け取ってしまうと自身が歪んでしまうから。
「冷や水を飲ませるとかよく言ってたねえ」
「なんか混じってるな……」
煮え湯よりは安全だから、いいんだけど。
「なんだか腹が減ってきた。なんか汁物とか食べたいな、豚汁みたいなの」
「いいねえ、冬にはそういうのが欲しいね」
「これが終わったら、食べに行こうか」
「お? なんかそういう誘い方するの初めてじゃない?」
「そうだね。流れなのか、いろいろと頭が溶けてるからかな」
過剰ともいえる制御が消えると、こういうことも平気で言える。普段がそれもできないほどの臆病者だというだけで。
言っているうち、周囲が朱色にオーバーレイされていく。
噴石のすぐ近くに来ているようだった。
「……焦臭いかも」
「焼けてはいるんだな……」
蠢く空間に対応しているからか、立ち止まると常に足元がぐらぐらと揺れている。
「酔わない?」
「我慢はできるよ、これくらい」
なかなかな距離を歩いた感覚で、足が少し痺れている。
深呼吸して、意識をはっきりさせる。
「眩しいな、ここまでくると」
目の前に噴石の中心があり、そこには無数の元素といくつもの数字が変化しながら蠢いている。何度も何度も変化を続けているので、そこだけが小さい混沌と言えそうだ。
「読めないパラメータばかりだ」
「少し弄れば、生命体でも生まれそうだけどね」
「シミュレーションの生命とか? 前に見たことがあるような、えーと、どこでだっけ」
思い出せないので諦めた。
始めようかねえ、と思うもしかし元の世界をどうやって引き上げてくるのかが見えない。
位置情報が掴めないことには、と白く輝くデータの奔流を凝視する。
「……。……、――――、――――――――」
「ランダムに動いてるから、見えてる部分には顕れなさそうだよ?」
「待ってれば出てくるってものでもないか」
「チンパンタイプ?」
「嫌な略称を作らないでくれ……」
ともかく、面倒だから手を突っ込んで探ってみようとした。
「熱いな」
「盟神探湯っぽくもあるね」
「まあ焼けそうにはないけど」
やっていると、璃月も同じように手を入れて探っている。
「……痛い。え、こんなことやってんの、君?」
「痛いんだ? ってか、そんな驚くことなの?」
「感覚でやってる人のやり口なんて知らないもの。わたしから見れば無茶苦茶すぎるよ」
その辺りは理解しえない様子だ。
詩音にしたって、真っ当な解析だの構築だのは初級の段階で諦めているのだから似たようなもので。
「一人じゃあ無理だかんねえ」
「まあ一人でさせることでもないからね……わたしにだって責任の一端はあるから」
「――――そうだな」
否定しようかと思ったけれど、安易に「そんなことはない」などと言っても、なんだか空虚に感じる。
これから何も気負わずにいてくれれば、とは思うが―――「お、あった」よそ見をしている間に手ごたえを感じて、反射的にそれを強く掴む。
「え?」
「ほら、こっち。俺の手首取ってみて」
言われるままに璃月の手が触れる。
「くすぐったいんだけど。そんな恐々としなくたっていいだろ?」
「重いんだよ。泥の中に手を入れてるみたいで、動かすだけで一苦労だ」
無数の可能性の中から一つのものを探り当てる難しさ。それは少しでもそういう分野に触れていれば判ることなのだ、と璃月自身が以前に言っていた。
どういう会話の流れだったかは、覚えていないけれど。
「引き上げて、こっちに上書きするので良いはずだけどさ」
「簡単に言うね……そんな単純なことじゃないんだよ? 細かい調整はこっちでやるけど」
「それっ」
合わせることはなく、詩音が全身を使って世界のデータを引き上げていく。
もとよりべらぼうに重量のある(詩音の感覚に沿って言うならば)情報量なので、簡単に引き出せるようなものではない。
遅れて璃月も同じように力を籠めた。
数百年分の環境、気候、生物、地形、人物、周囲の歴史とのすり合わせ、諸々のデータを履歴ごと読み込む作業なんて、簡単に終わるようなものじゃない。
思考の端で、そう言えばイラストソフトのヒストリがやたらと重いデータだったと思い出していた。
「ぐ……!」
時間がどれだけ経っているかはわからないが、かなり早い段階で脳が絞られるように痛んだ。吐き気の伴った不快な痛みのせいか息が荒くなっていく。
真っ白に見える噴石の中心。
その奥から詩音の戻す世界の様子を組み上げるタスク。
具象化すると重く白い大きな珠を引き上げる様子に見える。
学校ではハンドボールを片手で掴み上げることができなかったというのに、それよりも大きな球体を右手で掴んでいることが不思議で、面白い。
綱引きの要領、自身の体躯を後ろに倒す形になって、重心が大きく後方にある。
世界そのものからの抵抗は感じないが、単なる反作用で二人もろとも噴石に呑まれかねない。
「あ、っづ」
二つの世界線に居る人物のリストが、脳内に流れる。
違うルートのはずなのに、ほぼ同じなのも変な話だ。
それでも、こっちの方が少し足りない。
居なくなっているのはただの事故でも、無い方が良いなら。
ほぼ全力だったくせに、さらに力が入った気がした。
「うお、大丈夫かこれ」
噴石の周りにある空間の亀裂が、徐々に拡がっている。
鍛治と肉咬は間近で見ているから、反射的に身を守ろうと構えてしまっていた。
「……失敗して周辺地域ぜんぶ真っ黒、ってのが一番笑えねえよ?」
「詩音くんの脳が弾け飛ばない限りはそんなこともなさそうだけどね」
「……思うんだが、あんたは手伝う気ないんか? あれを直接処理できるだろうに」
質問に、いやいやと鍛治は否定した。
「彼の処理のやり方が特殊で強引だもの、あんなもの誰にも真似できないよ。少なくとも独自イメージのオーバーレイだなんて手法、神種には取れない」
「それもそうか。神には人の想像力は真似ができないからなあ」
人智から生まれた存在なのに、と肉咬は少し不満そうだ。できることが狭い代わりに、人の触れられない部分にも干渉できる優位性、どちらが優れているということでもない。
いつの間にか背中によじ登った狸が、鍛治の頭をべちっと叩いた。
「なんでよ」
「無責任、だとよ」
「否定できないなあ」
それだけやって、その狸も全員引き連れて走り去っていった。
「おやすみー」
「またね」
死ぬかもしれない現状を前に、それでも土地神ふたりは暢気に振舞う。
確信はなくて。
噴石の方に向き直ると同時、既に拡がっていた亀裂が二人を呑んだ。
目眩が酷くて、視界がぐらぐらと回っているように感じる。
璃月が出しているのか、目の前にある進捗状況はじりじりと埋まっていた。それでも半分も行かないうちから全身が壊れそうに不調を訴えている以上、本当にやり切れるのかが不安になる。
「吐きそう。吐いていい?」
「胃になにも入ってないでしょ」
冷静に返された。意外と平気そうなのかと視線を送ると、璃月の方も脂汗みたいなものが滲んでいる。
樹液、とか考えている辺りに詩音の方もまだ余力はありそうだ、と自覚できる。
「頭ん中でぱちぱち音がするんだよ」
「神経切れてる? いつものことじゃない」
「こんな音するわけあるか」
「再生が早いからね、普段は」
「追いついてないのか、このまま行ったら廃人コースじゃねえの?」
「かもね」
仕方ないよなあ、とは思うし。
正直、このまま死んでしまってもあまり不満はなかった。
自分のやったことを自分で終わらせるだけなのだから、それに殉じてもそれはそれでいい。それ以上に自分に価値を置けることがないと分かっているから。
「ちゃんと終わらせたら、生き返らせておくから」
「できるのかよ、それ」
「時限ありだけどね。アンドゥが利く範囲において、って感じ」
「なるほど、終わる前に死んだらどうなるんだ?」
「うーん……」
余計なことを考えている暇がないはずだった、だからこんなものは意味のない言葉を投げているだけに過ぎない。
意識が飛びかけているから、それを繋ぐためだけの。
「甘いもの欲しいな」
「わかる。飴か何か持ってくればよかったね」
「紅茶みたいな風味のやつが好きでさ」
「時々見かけるよ、わたしはべっこう飴が良いけど」
「それもいいよなあ」
「今はニッキ飴が欲しい気がする」
「レトロだよね、選び方が。今の商品とかはどう思うよ?」
「選り取り見取りが過ぎて逆に選べないよ」
「そうだなー、増えすぎて迷うな」
がちっ、と音が鳴る。詩音の足が滑って噴石に引き込まれそうになって、床の段差に引っかかって止まった音だった。
心臓が強く跳ねて、息が詰まる。
璃月の左手が詩音の胴を掴んで引き留めていた。
「落ち着いて、構え直して」
言われた通りに足を引き戻して、安定する場所に置く。
手を入れているからこそ判る、全身を引き込まれたら自分自身が情報体に分解されて戻ってこられない。
「璃月、そのまま放さないでいてくれると助かるかな」
「仕方ないなあ。……まあ、脚が震えてるみたいだしいいけどね」
持久力には昔から欠けている。
局所的というか、ほんの一点に全力を注ぐやり方でしか力が出せない。
「良くないって分かってんだけどなあ」
言いながら、脚をぴんと伸ばして固定する。
痛みなんか、今更どうでもよかった。無視して壊れても構わない、そう言って本能を捻じ伏せ。
こんなことは誰だってできるだろ、と思わなくもない。
暗い空を塗りつぶすほどに明るい光。
上へ上へと伸びているようで、それは光でできた大樹のように映る。
空間の裂け目とほぼ同じそれは、周辺地域だけでなく二百キロ離れた場所からでも確認できるくらいに明らかだ。
延々と落雷でも起きたかのような光が灯り続け、その様子が怪奇現象の一つとして記録されるのは当然で。
人間にはまるで干渉できない現象を解析するには、少なくとも五十年は必要だろうと誰かが言った。
頭が痛い。
足も手も、筋肉と骨と臓器といろいろが捻じ切られそうに痛い。
全部がそればかりで埋まってしまって、それでも目の前のことしか見えない。
眼球からも血を噴いているように感じる。
やっぱり死にそうだ、と少し怖かったはずなのに。
今は何も感じないのは、どうしてだろう。死に際だからこそなのか、脳がそういう風に動いているのか。
視界のすべてが真っ白に埋まっている。
自分が居た場所も、もう影すら映らない。
すぐ傍にいるはずの璃月の気配も分からなくて、それでも背中を通して脇腹に触れている手の感覚が確かだった。
「……。……、」
もっとこのまま、なんて思ってしまった。
この状況とかではなく、もっと一緒に居たいなんて思って。
ついぞ言えないままで、死にそうになっている。
「――――こんな駄々を捏ねるのは、もうないだろうけど」
声に出ているのかどうかも判らなかった。何もかも白くなって溶けていくような、自分自身すら無になった気分。
俺が居なくなったとして、困る人は居ないと思うけど。
そんなこと実際は、どうでもいいこと。
求めているのはこっちなんだから、しがみついてでも、失くしたくなかった。
痛みすら消えていく白い闇の中で、微かに通知音が聞こえた気がした。
「……、手繰った!」
「ごわっ⁉」
鳩尾から全身に衝撃が拡がり、血混じりの咳を吐いて意識が戻った。
慌てて起き上がり、額に強い衝撃を受けてしばらく悶えて。その間にも濁った血を吐き続けていた。
「なんで……」
真上に居た璃月に頭突きをした形のようだ、と気付いたときには即座に向き直ってごめんと口にしていた。
見れば、転げてはいないが蹲って震えている最中だ。
「いや、大丈夫……。それよりも、膿んだ血を吐いてるね」
「ああ、随分と汚れてるな、と思ったけど」
「まあギリギリで蘇生できたから、そんなもんだけど」
やはり死んでたのか。
確かめるまでもなく、自分の身体にうまく力が入らず、がくがくと震える感覚が横隔膜の辺りにある。
この感覚は今までだと極度の興奮状態でしか感じられなかったものだが。
「死にかけってこういうものなのかな」
「死んだことないからわからないよ」
「そうだろうけど」
「興奮というか恐怖というか、言ってしまえば似たようなものだよね」
死ぬ直前まであれだけの状態にあったのなら、臨戦態勢が維持されているだけのようにも思えるけど。
「落ち着いて。わたしに合わせて深呼吸して」
宥められながら、言われるままに呼吸を繰り返す。
痛いくらいの鼓動が聞こえなくなるころ、周囲を見渡してから戻ったんだ、と漏らした。
「やっぱり景色が違うな」
「十五年くらい、開発具合に差があったみたいだね」
あんなものが降り注ぐ環境で十五年なら短い方だったのかな、と璃月は言う。驚きというか、感銘を感じていたようだった。
「変に感じる部分はない?」
「俺は特に。そっちは?」
「……、うーん」
周囲を見渡して、上を向いた。空に浮かんでいる月を認めて、直後に地面を向く。
「変なこと言うけど、影がある」
「前はなかったっけ? 幽霊みたいな状態だった覚えはないけど」
「……、あのね」
何かを言いたそうにじっとりと詩音を見据える。
その意味がよくわからなくて、首を傾げると。
「まあいいや、帰ろう。その血も洗っておかないとね」
何かを返そうとする前に、璃月が詩音を軽々と抱えて立ち上がる。
「え、あ」
「動けないでしょ? 死ぬ前に戻しただけだからね」
少しだけ休んでからだよ、と可笑しそうに笑んでいた。
……、……。
両親にかなり本気で怒られた。
きっと三日帰らなかった上に、璃月に抱えられて家に送り届けられたことが原因なのだろうと思ったのだけど。
璃月に対しての二人の態度の方が妙だと感じた、そっちの方が印象深い。
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