それ、欲しいってことでしょ

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それ、欲しいってことでしょ

いつもと違う暖かさと重さで、桃は目を覚ました。 「…………」 うっすらと開けた瞼。視界はまだ霞んでいる。目の前にあるものに擦り寄れば、柔らかな感触と心地よさに桃は再び目を閉じる。 「桃ちゃん」 「………ん」 「起きた?」 「………」 「桃」 「……….…や」 まだ起きたくなくて、温かい方へ顔を埋める。 「…………桃ちゃん、あとで怒らないでね」 「……ん、」 さらりと桃の髪を流し頬を撫でる。千佳はそのまま手を桃の滑らかな腰まで持っていき、桃の臀部を撫でた。ぴくりと反応するが、桃の目は開かない。 桃の滑らかな肌の上を、千佳の大きな手が撫でる。やがてその手が、腰から少し上の方へ移動して桃の柔らかな膨らみへと達する。 「っん、」 「桃、そろそろ起きないと俺辞められなくなるよ?」 千佳がそう囁くと、ぴくっと体を揺らした桃は千佳の手を自身の胸から離そうと体を捩った。 「おはよう」 「……………お、はよ」 寝起きで少し掠れた声の桃は、髪で顔を隠し、体もしっかりと毛布に包んで隠れるようにする。 「桃ちゃん」 「………なに」 「こっち見ないの?」 「………見ない」 「見て」 「やだ」 「ふーん?」 布団にくるまって出てこない桃の腰を千佳はするっと撫でた。 「っ、だめ!」 その手つきが、くすぐったさと昨夜の感覚を思い出させて、桃は勢いよく布団から顔を出す。すると、ニヤリと満足げに微笑む千佳とばっちり目があった。 「だめなの?」 「だめ!」 「気持ちよさそうにしてたのに?」 「ばか、変態!」 恥ずかしくて、桃の口からはつい強い言葉が出てしまう。けれど、千佳はそんなことは全く気にしていないようで、くすくすと笑いながら桃に腕を回して抱きしめた。 「あー、かわいい。幸せ」 「……ばかって言われても?」 「桃ちゃんは恥ずかしがり屋だから」 「…………千佳は、」 「ん?」 「千佳は、なんで私のこと好きなの?」 千佳が好きかどうか、桃はずっと考えていた。考えてもわかるものじゃないとはわかっていても、千佳がなんて答えるのか聞いてみたかった。 「んー…本当に、一目惚れ、としか言いようがない」 「だって、最初の印象と中身は違うでしょ?」 「まぁ…桃ちゃんは、結構手強いし、恥ずかしがり屋だなって感じ」 「「」めんどくさとか思わないの?」 」 24歳の一つもない。恋愛に関するフットワークは結構重い方だと思う。それに… 「……好きな人とか、できたことない」 「うん?」 「誰かに会いたいとか、思ったこともないし」 「………」 「だから、結構、淡白なんじゃないかって、思って、」 「桃」 呼ばれて、千佳を見つめる。優しげに目を細めた千佳は桃の頬に優しく触れた。 「桃は、俺が欲しいと思ったんじゃないの?」 問われて、少し考える。 「欲しいっていうか、取られたく、ない」 桃がぽつりと小さな声で答えると、千佳は嬉しそうに笑って桃にキスをする。 「それ、欲しいってことでしょ」 恥ずかしさばっかりで、自分の気持ちに目を背けていた。けれど、ここまで言わされて、流石にもう無視し続けるほど、桃は頑固ではなかった。 「……ん、千佳が欲しかった」 「俺も。桃が好きだから、欲しかった」 再び深いキスを交わす。気持ちを確かめるように、溶け合わせるように。 桃の胸の中に、温かな気持ちがじんわりと広がる。 嬉しそうに微笑む千佳の顔を見ると、自分も泣きそうになって、でも、泣きたいわけではなくて、嬉しいような、そんな気持ち。 (……これが、好きってことなんだろうな) 桃が千佳の胸板に頬をつけて、千佳にぎゅうっと抱きついていると、しばらくして千佳が桃を引き離した。 「…….千佳?」 「桃、今日休みだよね?」 「うん…」 にっこりと、綺麗すぎるくらいの笑みを浮かべる千佳。何か、危ない予感を感じて、桃は無意識にぎゅっと布団を掴む。 「じゃあ、次は遠慮なくさせてね」 「え、」 千佳は言い終わると同時に、桃を優しく押し倒して桃の両手を布団に縫い付け、組み敷く。遠慮なくさせて、とは、昨晩のは遠慮していたということなのか、だとしたら、普通はどうなんだろうか、途端に思考が乱れてアタフタとする。 「好きな子とするのって、何回でもしたくなるんだね、知らなかった」 「ちょ、千佳、まって」 「無理」 綺麗な笑みをにっこり浮かべ覆い被さった千佳は、桃に再びキスを落とした。その顔は、笑顔というよりも鋭さを感じさせるような顔つきで。 「いい顔してるね、桃」 初めて会った時と同じような、妖艶な笑み。 -------あぁ、もう、逃げられない。 そう思ったのも束の間、深いキスと快感に翻弄され、桃は再び何もわからなくなるまで千佳に抱き潰された。
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