全部言ってよ

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全部言ってよ

どのくらい時間が経ったんだろうか。 「っ…はっ…ぁ、ん、も、むり…っ」 「無理じゃないでしょ」 蠱惑的な笑みを浮かべて、千佳は私を乱しては止めてを繰り返している。 登り詰めそうなところからその先へは行かせてもらえないもどかしさが苦しくて切なくて、泣きたくなるような感覚に呑まれる。 千佳の指は触れたら弾けてしまいそうになる場所を執拗に責め立てては止めて、その度に私は千佳に縋り付く。千佳は私の髪や頬、唇に愛おしそうにキスを落とすけれど、決して快楽の先に連れて行くことはしないし、行為をやめることもない。 「っ、ち、か…もう、許して」 「ん?最初から怒ってないよ?」 「っあ…じゃ、ぁ、も…」 「桃は恥ずかしがり屋で素直になりきれない時があるから、素直になれるようにしてあげる」 「っ、あぁっ、や、ぁ…」 ゆっくりになっていた指の動きが再び激しくなる。水音は最初よりもはるかに大きくなっていて、もう泣き出したくなるような快感と羞恥心に襲われる。 「全部言ってよ、桃」 「あ、っ、やぁっ…」 「そしたら、気持ちよくしてあげる」 「っ、は、ぁっ、ぁ…」 こんな、些細なことで不安になってるなんて情けない。千佳を疑うようなことをしたくない。自分でも経験のない気持ちを曝け出すのが恥ずかしい。 そんな気持ちが混ざり合って、もう、思考を投げ出したくなる。 「ね、桃」 「っ、ぁっ…」 千佳は耳元で囁くように言うと、私の中にある指を曲げ、くちゅりと音を立てる。 あと少し、その指を強く動かしてくれたら----……… その先に待つ深い快感に、体が震える。 もう、限界だった。 「おねが、千佳っ…もう、言うから…っ」 「…聞かせて」 「ふ、あん、だったのっ…」 「不安?」 「…千佳、が…女の人と、いたからっ…」 「女の人…あぁ…なるほど」 「っ、ち、か…?」 「桃、ほんとかわいい」 「っ、え、」 「いっぱいしてあげる」 「っ…!」 そう言って千佳は満足そうに微笑むと深くて激しいキスを落として、同時に今までとは比べ物にならないような強さで指を動かした。その激しさにあっという間に上り詰めてしまう。 「桃、好きだよ」 「っ、ぁ、ち、か、あぁっ…」 生理的な涙で視界が歪む。ぐちゃぐちゃで訳がわからなくなってしまいそう。千佳は私の目尻にキスを落とすとふわりと微笑む。 そして、そのあとは千佳にこれでもかと言うほど、執拗に愛された。 ----------- ------ ぐちゃぐちゃになって体に巻き付いた布団と、体にかかる心地のいい重さ。 「…ん」 「桃、起きた?」 頬に感じる温かな肌の感触と安心感。そして、聞き慣れた大好きな声。 「ち、か…」 「ん、かわいい」 千佳はぐしゃぐしゃに乱れているだろう私の髪にキスを落とす。ぼーっとしながらされるがままになりつつも、千佳はよく私にキスをするなぁ、なんて思う。 「桃、不安にさせてごめんね」 そう言って千佳は私をぎゅっと抱きしめる。 そこで、私は自分が何に悩んでいたのかを思い出して、冷静になる。 (そうだった…千佳が女の人と歩いてる、なんてそれぐらいで、不安になって…仕事かもしれないのに、いい大人なのに…恥ずかしい) 自分の子供っぽさに恥ずかしくなって千佳の肩口に顔を埋める。その仕草に、千佳は甘えてるのだと思ったのか、私の頭を優しく撫でてくれる。それがさらに、千佳に対しての申し訳なさを助長する。 「千佳…ごめんなさい」 「ん?なんで桃が謝るの?」 「……大人気ないから…」 「可愛いからいいよ」 「よくない、もう、24歳なのに…」 「桃は全部可愛いからいいんだよ」 「……千佳は私を甘やかしすぎじゃない?」 「俺も、好きな子をここまで甘やかす性格だと思ってなかったよ」 千佳はそう言って弾けるように笑った。 (私も、こんなに千佳を好きになるって思ってなかったよ) そう思ったけど、言う伝える勇気はまだなくて、代わりに千佳を思いっきり抱きしめた。 「じゃあ、ちゃんと話をしようか」 しばらく抱きしめあった後、シャワーを浴びて、服を着る。千佳が用意してくれた紅茶を飲みながら、二人で並んでソファーに座った。 「千佳が見たのは、今日の…もう、昨日だけど、お昼ぐらいじゃない?」 「うん…」 「あの人はね、俺の姉」 「え」 まさかのお姉さん。仕事相手とか、そんな感じかと思ってたら、ご家族だったことに驚くと同時に、自分のバカさ加減に羞恥心が込み上げてくる。 耳や顔が熱くなるのがわかって、思わず俯いた。 「お姉さん、いたんだ…」 「仕事の後にちょっと約束してて。言ってなかったね、ごめん」 「いや…こっちこそ、変な誤解してごめん」 「桃のやきもち可愛いからいいよ?素直にさせるのも楽しかったし」 千佳がするりと私の頬や首筋を撫でて妖艶た微笑む。 女性の正体がわかってほっとした、のは事実だけど、ヤキモチをやいて、千佳に隠すのは危険だということを身をもって知った。 「っ、もう、すぐに妬いたりしないし、千佳にすぐ聞く!」 「えー…まぁ…そのときは、教えてあげる代わりに、色々してもらおうかな」 「っ、千佳!」 「桃ちゃん可愛い」 人を好きになると、やきもちを妬いたり、すぐ不安になったりする。その気持ちは苦しいけれど、でも、千佳を好きでいられるのはやめられない。 (でも次からは、すぐに聞こう) 千佳のキスに身を委ねながらそう決意した。
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