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充実のスタジアム・グルメ!
先を行く真純を追いかけて行くと、そこにはたくさんの人たちと、なにやらテントとかキッチンカーがずらっと並んでいて、おいしそうなにおいが溢れていた。
家族連れがベンチに座って、串焼きを食べていたり、気の合う仲間どうしと見られる人たちはビールを片手に笑いながら話しをしている。
「今日は、18台のキッチンカーが出ています。これがまた、楽しみなんですよねぇ」
と、真純が言った。
今日は天気もいい。スカッとした青空が広がり、気温も高くなってきている。今日の試合開始は、18:00。今の時刻は、15:00を少し過ぎたところ。みんな、意外と早くスタジアムに来ているんだねぇ。
「まぁ、クルマで来ている人は駐車場の確保もあるし、それに、こういったキッチンカーや、あとは場外イベントとか色々、あるんですよ。今日の試合は、このスタジアムがある街の市民招待デーみたいなものなので、いつもより観客数も多いですね」
と、とある場所を指さした。
そこには、彼女が応援しているチームの選手たちのフラッグやら、同じカラーのテントなどが見える。
なるほど、確かに、キッチンカーのほかにも、地元企業の名前らしきものがいくつかあって、たくさんの人たちがその前に集まっていた。子どもたちの歓声が聞こえてくる。
ステージカーも出ていて、そのステージ上では、キーボード奏者が演奏を披露していて、ステージの前にはやはり、人が集まってきていた。
「なにか、食べたいもの、あります?」
「え、その前に何があるのか、みてみたいな~……」
「それはそうですね。じゃ、向こうから行ってみましょう」
「うん」
キッチンカー……この数年の間に、日本各地でキッチンカーがかなり「進化」しているんじゃないかと思う。また、プロ野球やサッカーなどはもちろん、他のイベントや公園などでも、オフィス街でもキッチンカーが出店するということが増えている。
ハンバーガー、カレーライス、ケバブ、ラーメン、フライドチキン(チェーン店じゃないのよ)、焼き鳥、串焼き、丼物、チャーハン、トルティーヤ、クレープ、コーヒー、綿あめ、パフェやかき氷、ソフトドリンク、アルコール……結構いろんなものが揃っているなぁ。それも、地元やその周辺の街からやってくるお店ばかりのようだ。
「なんか、お祭りみたいだねぇ」
「ああ、そんな感じです。日本のスタグルって外国の人たちからしてみると、本当に驚きのものみたいですよ。お値段も優しいし、なによりもおいしいって」
「へぇ!」
「お店同士でも、お互いに切磋琢磨しているから美味しさは進化しているし、主催者側……つまり、ホームチーム側も、キッチンカーの種類が偏らないように色々、工夫しているみたいですね。チームやスタジアムによっては、出店競争も激しいらしいですし」
ひと通り、キッチンカーを見ていて、気になったのが、屋台ごはんと称した看板が出ていたお店だ。人も多く並び始めているみたい。
「あ、このお店、気になるなぁ……」
「え?どれですか?」
私が足を止めたキッチンカーを見て、真純はニコッと笑った。
「ここ、私も大好きなんです。世界の屋台ごはんっていうのが売りで、人気も高いんですよ。特におすすめなのが、チキンオーバーライス!」
おお、それはまためずらしいな、チキンオーバーライス。大好きだ。
「真純は何を食べる?」
「じゃあ、私はジャークチキンライス。飲み物は、別のお店で買いましょう」
「ん?なんで」
「ビール、面白いお店があるんですよ」
と笑うと、私たちは行列のうしろに並んだ。
どうやらお店のパパさんは、真純と顔なじみの様子。車内にいるのはママさんらしく、限られたスペースの中だけれど、色々と作業をしているみたい。オーダーしてから料金をお支払いして、クルマの脇に移動。その間も、作業しているパパさんと真純は話しを続ける。
「今日は職場の同僚、連れてきました」
「あ、そうなの?ようこそ、いらっしゃい」
気持ちよい笑顔だ。ちょっとだけ、人見知りするところがある私だけれど、この笑顔には癒される。同時に、ホッとした。
「サッカー、観るの初めて?」
「あ、はい。真純が誘ってくれたので、せっかくだからと……」
「楽しいよ~って言っても、俺たちは試合そのものは観られないんだけれどな」
それでも、外で仕事をしていても、歓声やらなにやらで応援しているチームの勝敗とか試合の内容がわかるみたいだ。
「真純ちゃん、お待たせ!チキンオーバーライスとジャークチキンだ」
「ありがとうございます」
「楽しんできてね!」
出来立てだ!ほっかほか。これはすごいな。
そして、調理しながら明るく送り出してくれるパパさんは、次々に入ってくるオーダーに大忙しになってきたみたい。見れば、キッチンカーの前にはたくさんの人が並び始めている。
お礼を言ってから、私たちは人の間を縫って歩き始めた。
「あれ?あれって、オレンジジュース?」
みれば、ちょっとかわいらしいオレンジ色のキッチンカーが見えてきた。運転席側には、なんだか見覚えのある、かわいらしい顔が描かれている。
「あれは愛媛県名物のオレンジジュース販売ですよ。ほら、蛇口からオレンジジュースが出てくるっていう都市伝説。あれがホントに見られます」
「マジで?!」
言われてからちょっと近づいて見ていると、キッチンカーのうしろに蛇口がついていて……あ、本当にオレンジジュース!
「ああやって、アウェイチームの地域からもお店が来てくれることもあります。今回は、愛媛県の県庁関係者とか観光課の人たちも来ていますね。こういうのは、絶好の機会でもありますから」
みれば、愛媛県の法被を着た人たちが、テント前やオレンジキッチンカーの前でパンフレットなどを配布している様子が見える。
それから、別のキッチンカーで、真純おすすめのビールを購入。
たっぷりの黄金色の液体をこれでもか!っていうくらい、カップギリギリに注いでくれるのだ。
チキンオーバーライスの入った袋と、カップになみなみと入ったビールを片手に、私たちは空いていたベンチを見つけて腰かけた。
「まずは、ここで腹ごしらえですよ、美咲さん」
「うん」
ビールの入ったカップを互いに掲げて、
「ようこそ、Gスタへ!今日は一日、楽しみましょう!」
「ありがとう。いただきまーす!」
ふたを開けると、ふわんとたちのぼる、おいしそうな匂い。
やわらかいチキンがたっぷり、味のついたライスにのっている。彩りよく、細切りにされたレタスにはすっぱいドレッシングが少し。これを混ぜ混ぜして、ぱくり……
「おいしい!」
「でしょう?!」
これはおいしい。しかも、出来立て、ほかほかとあたたかい。
これに、ビールをひとくち。ううん、たまらない!
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