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「じゃあ苫己さん、そのお姉さんの分もお昼、作っといたんだ」
有咲カエデはそう言いながら、サンドイッチの包みを破りにかかった。
「オタクかと思ったら、主婦だったのねぇ」
なにそれ、と訊くシュウには耳を貸さず、一人感心している。大堀ミコは、はなから取り合う気もなさそうだ。
晴れた昼間の屋外を、最も心地よく感じられるのは、きっとこの時期なのだろう。
シュウたち三人は、グラウンドをいくらか外れた草地にシートを広げ、それぞれの昼食を広げている。
ここは、彼らの通う学校。伏田白神社近くから始まる貫八木川を、西へ西へと流れて行った先にある、八木中央高校だ。
昼時のグラウンドには、遠く人影が映っていた。
「ああ、今日はここにしてよかったわね。ちょうど気持ちいい感じだわ」
シュウの頬を、髪を、秋風が流してゆく。じきに寒気を運んでくる前の、最後の感触である。
「苫己さん、大変じゃあないの?毎日お父さんの、朝と昼まで用意しておいて」
私は無理だわ、とカエデがあからさまに顔へ出す。
「そりゃあ、楽ってことはないけれど。そういうものだもの。やらされているわけじゃあない。それにね、どうしても面倒な時は、ご飯の残りだけ確認して、後はツナ缶とかなにかをテーブルに積んでおくの。それで好きなようにやってちょうだい!ってさ」
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