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しかしそれを証明する手立てはない。
仕方なくロウにあてがわれた番候補の雌たちと形だけの行為をしてみたものの、吐精するには至らなかった。
ロウが欲しいのはユイだけだ。
人間の娘にも興味が湧かない。
仲間たちが享楽に耽っていても、少しもその気にならなかった。
ロウがまぐわいたいと思うのはユイだけで、それはユイが人間だからではなく、ただ、ユイであるからだ。
しかし問題はもう一つあった。
ユイにその気が全くないことだ。
近親交配の観点から生まれてくる子が遺伝的疾患を持つ可能性がある、というのも問題かもしれないが、ロウにとってはあまり重要ではなく、ユイの気持ちが最大の問題だった。
『ロウ、臭いからもう一緒に寝ないっ』
幼いときはいつもロウの後を付いてきて、甘く柔らかい身体を纏わりつかせていたくせに、いつしかユイはロウから離れた。
そもそも、人間であるユイにとっては、人狼の生態は野蛮に映るらしかった。生肉を食むだけでなく、人間を凌辱して食い殺すことを楽しむ習性があるのだから、そう感じるのも無理はない。
人狼の群れの中で異質な存在であるユイは、どこか寂しそうにしていた。
ユイを自分の相手とすることは、ユイを人狼の群れに縛り付けることになる。
「ユイ様は、人間を恋しがっておられるのでは」
「同種族の方が分かり合えるものがあるのかもしれません」
ロウの心中を少なからず察している居城に棲む者たちは、それとなくロウに助言した。ユイを自由にしてやれ、と。
『私、人間と結婚するから』
でも離れたくなくて。
例え番えなくともそばに居たくて。
ぐずぐずしていたら、言伝を残してユイがいなくなってしまった。
慌てて後を追いかけると、ユイはひ弱そうな人間の男と手を取り合っていた。
その男の家でひらひらした衣服を纏って、同じような格好をした人間たちと楽し気に過ごしていた。
「ボス、また見に来てるんですか」
「シスコンが過ぎません?」
「うるさい」
ユイが人間社会に行ってしまってから、ロウは気づかれないよう毎日離れたところから様子を見ている。側近のヴィルとシュンにからかわれたり呆れられたりしたが、そんなことはどうでも良かった。
「…あいつ。距離近すぎないか」
「…まあ、ダンスってやつらしいスから」
「…まあ、結婚するとか言ってますから」
強引に連れ戻して、四六時中抱いていて、どこにも行けないようロウにがんじがらめに縛り付けてしまいたかったが、ユイの幸せを考えたら耐えるしかない。
腸は煮えくり返るし、相手の男を八つ裂きにしたくなるし、身体中の毛が抜け落ちそうに胸が痛むが。
ユイが望むなら、見ているしかない。
他の男の腕に抱かれて、幸せに微笑むユイを。
「あー、もう、誰か俺のこと殺してくれないかな」
「ボスに敵う相手がいると思ってるんスか」
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