Ⅲユイの章【錯覚】

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「や、…や、ぁっ、…ロウ、…―――」 お湯に阻まれる刺激が逆に心地よくて、後ろから突き上げられる背徳感に興奮が増す。ロウが細やかに動くたび、強力な快感に絡め取られて、ユイは際限なく達し続けた。 ロウの舌と手のひらがなだめるようにユイを撫でる。 だから嫌なのだ。 ロウと湯浴みすると過度に気持ち良くなって、我を忘れてロウにすがりついてしまう。 ロウはあくまでも怪我人の介添えで。ユイを洗い清めるためだけに付いてきているというのに。自分だけが場面を顧みず、はしたない声を響かせて淫乱に溺れている。 「ロウ、…あ、…あぁっ…――――――…っ」 散々ユイを乱れさせて、快楽に弾け飛ばせて満足させると、ロウはそのままユイを抱き上げて、きめ細かい泡で丁寧に全身を洗う。もはや羞恥も限界だが、力尽きたユイに抵抗する術はない。ロウに為されるがまま、未だ敏感に震える身体を柔らかい泡に包まれる。 髪を洗ってもらう頃にはもはや開き直り始めている。 自分でできると言ったのに、ロウがダメ出ししたんだし、一緒に湯浴みしたらこうなるって分かってるはずだし。 髪を梳くロウの指はちょうど良い力加減でとても気持ちがいい。 ロウはどうしてこんなに何もかも上手なんだろう。 ロウに全身をゆだねながら、ふと湧き起こった疑問に胸が痛んだ。 経験値の違いだろう。 つまり、ロウは番候補の雌たちと有り余るほどの経験を積んでいて、一緒に湯浴みしたりもしているという、… 「どうした?」 ユイを横抱きに膝に乗せ、髪を丁寧にすすいでいたロウが、じっと見つめるユイの視線に気づいた。 「無理させたか」 図らずも鼻の奥がいたくなって、涙が込み上げてしまったユイをいたわるように抱きしめて、ロウが涙に唇を寄せる。熱くて、甘くて、優しい。ロウが好き。 ちゅ、ちゅ、…とかすめるように触れるロウの唇が、くすぐったくて優して、胸が痛い。 治療行為に勘違いするばかりか、身勝手にも嫉妬して、ロウを独り占めしたくなるなんて。 「ロウ、…」 ユイの要求を正確に読み取って、ロウが優しいキスを落とした。 触れ合う唇が、同じ温度になって、食まれる唇が期待して熱を持ち、するりと差し入れられた舌に自分から舌を絡める。飲み込まれる吐息が反響して耳に響き、ロウにぴったりくっつきたくて、両手を伸ばしてロウに身体を寄せる。1ミリの隙間もなくぴったりと触れるロウの素肌は逞しくてうっとりするほど心地いい。 ロウが好き。 ロウは飽きるほどキスを続けた後、柔らかい布でユイをくるんで拭き、髪を乾かして、ベッドに寝かせた。ユイが眠りに落ちるまで、優しく髪を撫でてくれる。 こんなのもう、どうしようもない。 「は? 人間が?」 「はい。どうしても供養したいのだとか」 まどろみに漂う直前、ロウが側近と何か話すのが聞こえた。 「すぐ戻るから。いい子にしてろよ」 ロウがちゅっと優しいキスをしてくれたのを最後に、ユイは心地よい眠りに落ちた。
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