Ⅳロウの章【探求】

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ユイに知らせなければならない。 この男のことをユイに知らせて、ユイをこの男に委ねるのか、と思うと死にたくなる。 未だ完治していないと引き留めても、いずれ、時間の問題だ。ユイを手放さなければならない。 「お前はいいな、ユイに愛されて」 結局、それが全てだ。異種族だとか血縁だとか後継ぎだとか、そう言ったものは取るに足らない。どんなに能力に優れていても関係ない。 思わずロウがつぶやくと、京月院スミカと名乗った人間の男は、驚いたように目をいっぱいに見開いた。未だむせび泣いた涙の跡が見える。 「え、…愛され、…? いえいえ、まさか。完全なる私の独りよがりです。ユイ様には他にお慕いしておられる方がいらっしゃって、…」 「…は!?」 涙の粒をさらしたまま、目をぱちくりさせている京月院スミカを前に、ロウは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。 ユイが好きなやつは他にいる!? 「いやでもお前、…番おうとしていなかったか?」 「それはその、見せかけの祝言で、そのように周知した方が、ユイ様を守れると思ったのです。まさか羽菱があのような凶行に及ぶとは、…」 スミカは深く自省しているようだが、ロウはそれどころではなかった。 「誰だよ? ユイが好きなやつって?」 思わず声に出していた。 まるで思い当たらない。 京月院スミカではない、別の人間か。しかし、この男以外にユイと近しかったやつがいたか。 「私は存じ上げないのですが、…」 なんだと? そんなお前、一番重要なところを、… 「叶わぬ恋のようでございました」 京月院スミカが儚い笑みを浮かべ、ロウは胃がキリキリ痛むのを感じた。 そうか。 ユイは叶わぬ相手に恋をしている。それは、… ロウのような状態にユイも陥っているということだ。 どんなにツラいことだろう。 ユイには幸せでいて欲しい。 自分の思いが届かなくても。ユイが幸せならそれでいい。 そのためなら、何でもしてやるのに。 「なんで叶わないんだ?」 もはや同志となった人間の優男に尋ねると、奴は頼りなく首をひねった。 「詳細は存じませんが、ユイ様は帰れないと仰っていました」 帰れない? 相手は人狼なのか? 人狼は基本的に人間を餌としか見なさない。 ユイは人狼の娘だから、群れの奴らは餌とは思わないだろうが、番うべき伴侶とも思えないだろう。 ロウの父親とその前のボスは相当に稀有な存在だったと言える。 いやでも、相手が人狼なら、そいつ噛み殺そうかな。 そんなことしたら、ユイが悲しむか。 いやでも、俺より優れた人狼はいないが? まあ、能力の優劣は恋心に作用しないか。 「あの、…人狼様」 黙り込んでしまったロウにスミカが声をかけると、 「ああ、うん。そうだな。ユイを連れて来よう。お前も、…強く生きろ」 「はあ、…」 類まれな美しさを持つ白き人狼に、なぜか励まされた。
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