Ⅵロウの章【相愛】

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「ユイも無事だ」 興奮する群れの中心で、我らがボスが嬉しそうに腕に抱いている小娘に頬ずりする。ボス帰還の歓喜で見落としていたが、よく見ると人間の小娘であるユイがこの上なく大切そうにボスに抱かれていた。 あ。ユイ、…様、もご無事で。 「すまぬが、俺はユイとしばらく城に籠る。後は頼む」 「はっ」 え。あ、…さようで? 群れの興奮が冷めやらぬ中、ボスは颯爽と群れから離れ、凍湖を後にした。 瞬時に態勢を整え、ボスを追って跳んだ側近以外は、皆出遅れた。 「あ、ボス、……っ」 「え、ボス、……?」 ボスの跳躍力は並外れている。どう頑張っても誰も追いつけない。 「院長、ボスはよもや、……」 「いや、待て。そう結論づけるのは早計というもの、……」 あっという間に姿を消した白きボスの動向を元老院たちは案じる。 命がけで取り戻しに行った妹をそれはそれは大切そうに抱いて、……で、二人して城に籠る、ということは。 「しかしながらあの一心なご様子。ボスは既にご決断を、……」 「いや、極度のシスコン、…もとい、妹の一大事に過保護な兄の本能が騒ぎ出したという可能性も、なくはなく、……」 「そ、そうですね。ボスが励まれている治療の一環という可能性も、なくもなくも、……」 いや、そんな可能性はないだろう。 希望的観測を口にしながら、誰もがボスの決断を察知していた。 誰が見ても、どこからどう見ても。 我らが白きボスが、人間の妹を唯一の相手として選んだのは明白であった。 「まあ、ボスがご無事で戻られたのだから、いましばらくは様子を見ようではないか」 「確かに。ボスが健在であれば、先のことはいずれまた、…」 思うところは多々あれど、ひとまず群れはボスの健在に感謝して、高山にある凍湖を去り、人狼の森へ帰っていった。 その様子を凍湖底の狭間に棲む鹿王が見守っていた。現世(うつしよ)からは見えぬ目で。 狭間に落ちて現世に戻る者は狭間での記憶を失う。されど、人狼の白き王の記憶だけは消せない。彼もまた、時空を超える力を秘しているから。 今回も人間の娘はラキを忘れているが、白き人狼は覚えている。 いずれ、また白き王と会う時が来よう。 その時は今度こそ、唯一の(つがい)と二人一緒に来るであろうな。 居城内の自室に入るなり、ロウはユイと肌を触れ合わせ、手足を絡め合い、甘く麗しく濡れる姿態に舌を這わせた。優秀な側近であるヴィルとシュンは全てを理解し、邪魔にならないよう周囲を見張っている。 これで存分にユイと抱き合える。 今のロウにとって、それ以上に大切なことはない。 「待って、ロウ。…恥ずかしい」 既に身にまとうものは何もなく、透けるように滑らかな肌を晒したユイが手で胸を隠しながら涙目で訴える。明らかに逆効果なんだが。 「うん、大丈夫。暗いから。見えない」 「ぁ、……っ」 待てるわけがないので適当に言いくるめながら、指と爪、舌をユイの身体に遊ばせると、ユイは耐えきれないように可愛い声を漏らした。ロウに慣らされたユイの身体はわずかな刺激で従順に反応する。 「見えない?」 「うん」 ロウの舌先に反応して、ユイの肌がみるみる色づき、膨らみをもって潤っていく。甘く麗しく至高の味わい。
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